先週、袴の流行について調べていて、「女子大生・卒業式・袴・いつから」で検索したところ、90年ごろから1987年の映画「はいからさんが通る」の流行で女子大生が卒業式に袴をはき始めたという記事があり、当時女子大生だった自分の実感とは合わないなあと思ったのがきっかけで、調べて見ました。二週連続袴の話題で失礼します。
まずはお知恵拝借!と、その頃以前に女子大生だった皆様に卒業式の服装についてSNSで聞いてみました。ちなみに91年卒のわたしは、1尺4寸(53センチ。ちょっとだけ長め)の袖のピンクの江戸小紋に紫の無地の袴でした。同級生は袴もいれば、振袖もスーツもいました。生協でレンタルもありました。
83年卒:友達はほとんど袴姿
85年卒:袴。写真をとっておけばよかった!
85年卒:自分も友達も袴。謝恩会はドレス。84年卒の姉も袴。75年卒のいとこが着たピンク付下とえんじの袴を借りた。
85年卒:色無地に袴(デパートレンタル)。ほかにも付下、振袖に袴の人もいた。
85年卒:うす橙色の色無地と母の黒い袴。袴と振袖は半々だった。
90年代卒:ほぼ振袖。袴は女性の先生が着るイメージだった
88年卒:東京女子大はほとんど袴(矢絣は禁止だった)
88年卒:キャップとガウン
86年卒:袴(レンタル)着用。袴は多かったが、振袖やドレスもいた。
91年卒:保育園の先生である伯母(今88歳)はずっと卒業式は袴だった。その袴を借りた。
91年卒:成人式の振袖にレンタルのグラデーションの袴。
80年代から袴は定番のようですね。ちなみに、銀座いち利の女将にも伺ってみたところ、74年卒業で振袖に袴だったそうです。周りも小紋や色無地に袴で、先生も袴だったと教えてくださいました。
「はいからさんが通る」の映画の影響で袴が復活して履かれ始めたということではなく、礼装として卒業式では定番の服装のひとつであったのではないでしょうか。原作漫画の連載開始が1975年、アニメ化が78年ですので、そちらのほうがブームへの影響はありそうです。私自身も子どもの頃から大好きだった漫画ですし、刷り込みになっていると感じます。
袴が定番でこれが流行、というように雑誌にとりあげられたりするのには、女子の進学率も関係があったのでは?との指摘も。70年代に大学が大衆化し、女子の進学率も上がり、80年代には女子大生ブームがやってきます。
ふーむと思っていると、『
スキルアップ!情報検索 基本と実践』の著者の一人である中島玲子先生に「女子大生 袴 1980」で検索したら共立女子大の文献がありましたよと教えてもらいました。
田中淑江ほか.
卒業式に見る袴の現代的着装の研究Ⅲ : 「伝統的な視点から.共立女子大学家政学部紀要」2015,Vol.63, p. 23 - 35.によると注の(1)に「筆者が新聞4 紙(朝日新聞・読売新聞・毎日新囲・繊研新聞)を用いて分析した結果、袴復活の黎明期を1980年代初期-1980年代後期、定着期を1980年代末期-1990年代中期、安定期を1990年代後期~現代と時代区分を行った。」とあります。
全文もpdfで読めますし、この研究にはⅠやⅡもあり、卒業式の袴の着付の考察(衿あわせやえもんの抜き具合など)や流行などについて研究されておりものすごく面白い。ぼんやりと袴について「そんなかんじ?」と思っていたことが明文化されていて老眼鏡をかけたときのような気持ちになりました(婆)。
また、
togetterのまとめ記事もありました。引用されていた1980年代バブルのころの謝恩会のドレスが度肝を抜かれる華やかさです!!
1970年代から女子大生の数が増えたのに伴い、1980年代初期には袴を履く女子大生の絶対数が増え、今では卒業式といえば袴、というような状況になったと考えられます。レンタル業者が着付までまとめて校内で行ったりするようになった時期とも重なるのでは。あとは、校風や学部や専攻にも関係があるかもしれませんね。
中島先生に「知りたいことを検索するときは、いつから?とか抽象的な言葉ではなく、知りたいことがどういう風に書かれているか、使われている言葉を想像して検索するといいですよ」と教えていただきました。
わにこはひとつ賢くなりました・・・・。
そして、「袴に振袖をあわせるのは最近のことだ」となんとなく思い込んでいたのですが、いち利女将の証言によって覆されました! 確かにはいからさんしかり、大正時代の高畠華宵の絵にも振袖に袴の若い女性がたくさん描かれていますし、もともと袖が長い着物にあわせるほうがスタンダードで、むしろ70~80年代の普通の袖丈の着物に袴、という流行のほうが少しイレギュラーだったのかもしれません。この頃は、手持ちの着物に袴をあわせていた人が多数だったためと考えられます。
今は着物もレンタルが多く、ほとんど二尺袖(76センチ)か振袖(100センチ前後)になります。やはり袖が長いと華やかですよね。もちろんご自分の着物で用意されている方もいらっしゃると思いますが、普通丈の袖は先生が着るものという流れになってきています。着物といえば何か絶対のルールがあると思いがちですが、細かい常識や流行も時代によって変化しているものなんですよね。
今回は女子大生に絞って調べましたが、今は小学生も卒業式に袴を着用しますし、それも漫画「ちはやふる」の人気が関係あるという人もいるようです。それだけではないにしても、漫画の影響というのも昨年の七五三の子どもたちの「鬼滅の刃」の影響による和装人気を見ても確かにあると感じます。
今回はふとした疑問から、ネットを通じて調べただけですがいろんなことがわかりました。そして、ちょっとぐぐって一番最初に見たものを鵜呑みにしたりすることは避けて、裏をとる大事さも痛感、反省。今は、なにかあるとすぐ拡散されてそれが事実かどうかというのはなおざりにされているように感じます。いろんな情報をちゃんと読み込む検索のスキルも必要なんだなと、袴とは関係ないところでも考えさせられた一件でした。いろいろ教えてくださった皆様に、感謝です!