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第100回「東をどり」鑑賞に紗袷で。の巻

星わにこ
2025/05/28 00:00
年に一度、普段は一見さんお断りの華やかな新橋の花柳界を垣間見ることができる「東をどり」が、今年で100回目を迎えるそう。昨年につづき、ご縁をいただいて新橋演舞場に友達と鑑賞に行きました。 新橋演舞場は、新橋の花柳界の組合が「京阪にある芸妓衆の発表の場所を東京にも」という悲願から、設立されました。大正11年に建設が始まったものの翌12年の関東大震災で工事は頓挫したばかりか、新橋も焼け野原となる大変な状況の中、それでも念願の演舞場が大正14年に完成しました。交渉の末「芸者の興行は不可」という警視庁の庁令も改正され、この年の4月に第一回の「東をどり」が開催されたそうです。 戦争で中断されたり、時代にあわせて興行の形を変えながらも続いてきた「東をどり」。今年は記念すべき100回目ということで、北は札幌から南は長崎まで19の花街から応援が駆けつけ、一層華やかな舞台となりました。 (「100回記念公演東をどり」パンフレットより) 私が伺ったのは5月26日の昼の回。向島(東京)と札幌、先斗町(京都)からのゲストを迎える回でした。客席も着物姿の方が多く、髪型や着こなしもこなれていて本当に眼福。開場を待って並んでいる段階から非日常感がすごいです。 私も今年は、気合いを入れて紗袷を着ていきました! 憧れの着物、紗袷についてはこのコラムでも何度かお話ししたかと思うのですが、戦後新橋の芸者さんがこの5月末の「東をどり」で着てから流行したものと言われています。着用期間がまさにこの時期、袷から単衣に切り替わる5月末~6月頭のほんの10日間だけとも言われる着物です。 (現在は単衣の時期に着用されることが増えていて、この限りではありません) 関連記事: いつかは欲しい!憧れの紗袷(しゃあわせ)の巻 やっと着られた!紗袷でしあわせ~♪の巻 まさにこの「東をどり」の鑑賞に着ないでいつ着るの?というわけです。自己満足なのではありますが、人生でやりたかった夢を一つ叶えられた気持ちです。感謝!! そして舞台はいうに及ばず。女性の目から見てもぽ~っとなるくらい美しい芸妓さんたちが、美しい舞を披露。新橋の東京らしい粋な雰囲気、また他の花街の芸妓さんたちもそれぞれの雰囲気があり、うっとりの連続。贔屓の芸妓さんに声がかかるとまた盛り上がります。歌舞伎とはまた違う、女性ならではの美しさに魂を持っていかれちゃいます。 そして幕間には、憧れの料亭の食やお酒も楽しめます。昨年はお茶席に入りましたが、今年はお祝い気分で思い切ってドン ペリニヨンで乾杯しちゃいました! わお!! 長身黒服のイケメンがサーブしてくれる黄金の泡~~~。夢心地でございました(笑)。 他にも枡酒やビール、おつまみセットなどもあり30分では回りきれないので狙いを定めていくのがおすすめです。来年は料亭の卵焼き食べ比べがしてみたい(行く気マンマン)。。。芸妓さんが幕間に出てきてくれるので、運がよいと一緒に写真もとってもらえます。 そしてまた舞台に戻り、まわる橋をテーマの趣向を凝らした演目から、圧巻のフィナーレに。黒のお引きでずらりと芸妓さんたちが勢揃いするフィナーレは本当に華やか!!! 最後はてぬぐいがまかれて幕が降ります。今年はお友達の協力で、秀千代姐さんの手拭いをゲットしました。嬉しいっ! 華やかな高揚感の中劇場を出たら、向いの喫茶店「茶房 絵李花」で昭和なケーキセットなどいただきながら、舞台の感想やおしゃべりをして解散。この喫茶店は演出家の宮本亜門さんの実家としても有名で、待ち合わせをする人たちで賑やかです。この店内がまた華やかな着物姿の方が多く、夢の続きのようでした。 東をどりが、この先も続くことを願いつつ、自分自身もまた元気に1年過ごして、華やかな舞台を着物で観にこられたらいいな!と思った1日でした。 <昨年の様子> 「東をどり」で花柳界の華やかな踊りを堪能しました

琵琶に白蛇。歌舞伎座へ弁天小僧の因みコーデで、の巻

星わにこ
2025/05/21 00:00
機会に恵まれ、今月も歌舞伎座にいってきました。毎年5月は團菊祭(九代目市川團十郎と五代目尾上菊五郎の功績を讃える祭典)ですが、特に今年は8代目尾上菊五郎と6代目尾上菊之助の襲名披露ということで、いつにも増して歌舞伎座が華やかな雰囲気に包まれています。 夜の部では、義経腰越状、襲名披露口上、弁天娘女男白波の序幕と二幕目。弁天小僧は菊五郎の当たり役、白浪五人男の台詞もとても有名ですよね。私もお祝い気分で訪問着ででかけることに。役者さんの奥様方もロビーにたくさんいらして、お客様も華やか目の着物の方もいつもより多かった気がします。 傘を片手にどうして悪の道に入ったかを語るつらねと呼ばれる場面では、5人の盗賊がそれぞれの物語をモチーフにした衣装を着ています。 日本駄右衛門・・・・白波に方位磁石 弁天小僧菊之助・・・・弁天様の琵琶と白蛇、菊の花 忠信利平・・・・雲に龍 赤星十三郎・・・・尾長鶏と凶星 南郷力丸・・・・稲妻と雷獣 いずれもその生い立ちや台詞にちなんだ図柄で、歌舞伎らしく大胆! 「問われて名乗るもおこがましいが」「さてどんじりに控えしは」など、ずらりと並んで述べる七五調の口上はきっとどこかで聞いたことがあるはず。 今回このシーンは六代目菊之助が弁天小僧。日本駄右衛門の市川新之助、忠信利平は坂東亀三郎、赤星十三郎は中村梅枝、南郷力丸は尾上眞秀と平均年齢11歳という歌舞伎の次世代を担うお子さんたちがずらり。そのお父様方がまた若いころから見ているわけですから、えーあの〇〇さんちの赤ちゃんがもうこんなに大きくなって!!と感慨ひとしお。完全に気分は近所のおばちゃんです。ずっと片手を真横に伸ばして重い番傘を持っているので、ぷるぷるしているのもが、がんばれ!と孫を見るような気持ちで応援したくなってしまいます。 せっかくなので因み柄で・・・・と手持ちの着物で考えて、弁天小僧の衣装、琵琶に白蛇をテーマにすることに。仕舞い込んでいた琵琶の柄の訪問着に菊之助にちなんで菊の袋帯。数-SUU-さんの帯留「大蛇」の白蛇さんバージョンで、自己満足コーデのできあがり。 素敵な訪問着の友人と、五代目菊五郎の胸像の横で記念写真も撮ってもらいました! 今回「知らざあ言って聞かせやしょう」という台詞で有名な序幕では八代目菊五郎が美しいお嬢さん(お母様そっくり)から、正体がバレて弁天小僧だと名乗るシーンと最後に屋根の上で立ち回りをするシーンは八代目菊五郎(私にとっては菊之助)が演じていて、脂の乗った感が素晴らしかったです。市川團十郎(私にとっては海老蔵)との同級生当代菊団コンビも盤石感。あまり歌舞伎に詳しくない私もとっても楽しめました。 今回八代目菊五郎襲名で、先代の菊五郎さんはなんと言う名跡になるのかなと思ったら、なんとそのままだそう。50年以上名乗った「菊五郎」を名乗り続けたいという七代目の希望で、二人の菊五郎が存在するという史上初の状況だそうです。二人の菊五郎が舞台に立つという歴史的瞬間を見られて感動でした。まだ11歳の菊之助くんのしっかりぶりにも驚き! これからが本当に楽しみですね。いつか9代目菊五郎を見られるよう元気で長生きできたらいいな。 6月8日(日)にはBSフジで「2人の菊五郎 11歳の菊之助 ~密着100日 世紀の襲名ドキュメント~」という番組も放映されるそうなので見なくては。歌舞伎の世界を描いた映画『国宝』も6月公開予定ですし、ちょっとだけ歌舞伎熱が高まりそうなわにこなのでした。

祝印刷博物館新館長就任!京極夏彦コーナーに着物で行こうの巻

星わにこ
2025/05/14 00:00
先週に続き、印刷博物館に着物で行った話です。前回は主に後ろ姿(帯)のお話でしたが、今回は前(裏表あるのっていう)。印刷博物館に行ったのは「黒い芸術」の展示を見に行ったのですが、もう一つ! それは4月、一部に激震が走った「京極夏彦先生が印刷博物館の新館長に就任!」というニュース。 「世の中には不思議なことなど何もないのだよ」という決め台詞で有名なあの京極堂、「百鬼夜行シリーズ」の作者であり、グラフィックデザイナーでもある京極先生が!と界隈が大歓喜です。 印刷博物館では就任記念として「京極夏彦の著作 館長就任記念展示」が 第Ⅰ期から 第Ⅲ期まで1年間にわたって展示されます。 1994年の『姑獲鳥の夏』以来、鈍器としても使えそうな分厚い単行本を夢中になって読み耽り、子供が生まれた時は礼二郎と名前をつけたいと言って止められた身としては、これは行かねばなるまいというわけで、こちらも楽しみに行ってまいりました。 京極先生は常に着物姿であることも知られていますよね。そして、常に指ぬき革手袋をしていることでも有名です。妖怪研究家とも知られ厨二心をロンギヌスの槍で刺してくる先生をリスペクトして、今後はずっと着物姿で訪館したいくらいです。 京極夏彦で画像検索すると、常に着物である先生のダンディーなお姿がたくさん見られます!! いや~ほんとに素敵なんですよねっ。若い頃も素敵ですし、最近の貫禄がついたご様子もまた素敵!! 記念展示は、先生の著作がずらりと並び、本を持ち上げるとその本の印刷のこだわりが書いてあります。「豆腐小僧双六道中ふりだし 本朝妖怪盛衰録」 (講談社)という分厚い本の背表紙が破れたら謝る豆腐小僧が印刷してある……なんて一生誰の目にも触れないかもしれないところにまでこだわり抜いた製作エピソードに度肝を抜かれます。書籍の魅力に取り憑かれそう~。 先生は基本羽織をお召しになっているので、私も昔いち利で買った黒の薄羽織「さらり」を。これは透けるけれども生地が厚めで落ち着きもあって、シワにもなりづらいのでめっちゃ重宝しています。再販しないかなぁ~。そしていつも羽織紐は紐を結ぶ派なんですが、先生がいつも有事にはぱあ~~っと散って攻撃してきそうな玉のものをされていることが多いので、ビーズの羽織紐にしてみました。 その下には黒の単衣と、自作の因み帯(前はフォントかるたバージョンです)。ゑびす足袋の革?足袋の黒と、これまた黒のワニ型押しエナメルの草履で持っている黒を総動員しました。 そしてこだわりはちょっとたっぷり目に見せた赤の帯揚げ。展示入り口の巨大な京極先生の写真の黒い着物と赤い首巻をイメージしてみました!  そして忘れてはならない‥‥‥指ぬき革手袋(なんちゃって)もこの日のために入手しました(どんだけ)。手袋をテーブルに置いておいたら、子供が「やべっ!京極夏彦じゃん!やべっ!」とはめようとして、「入らない!」と嘆いていました。レディースサイズだからねごめんね。礼二郎とは名付けられなかったけど、立派なオタクに育ってお母さんは嬉しいよ……笑。 そして先生の書斎に並ぶ本が壁に印刷されてあたかも憧れの場所に立っているかのような気持ちに。写真OKゾーンなので、友達に写真を撮ってもらいました! 私、嬉しそう(笑) 第Ⅲ期、第Ⅲ期も見に行かねば!  そして5月中に全国の紀伊国屋書店で京極夏彦新館長の著書(単著のみ)を購入すると、京極夏彦直筆メッセージをプリントしたレシートがもらえます。そしてそれを印刷博物館に持っていくと 企画展「黒の芸術」期間内、優待価格で入館できるキャンペーンもやっています。 また、来週5月20日のNHK Eテレ「あの人の本棚」(21:30~)では先生が登場! みつしり本が詰まった本棚で埋め尽くされた書斎が見られます。これも楽しみ! また百鬼夜行シリーズを最初から読み直し始めてしまいました。やっぱり面白い~~! 大好きな方もそうでない方も、印刷博物館へぜひ着物や浴衣でおでましください。楽しいですよ!

印刷博物館・ブラックレターの森へ黒い着物とTシャツ帯で巻

星わにこ
2025/05/07 00:00
着物を着る回数を増やすぞ!キャンペーン中の私なのですが、着物をきたらやっぱりお出かけしたいなあということでおでかけが増えています。そしてどうせお出かけするならそのテーマにあった因み(ちなみ)コーデで出かけたいなと思ってしまうのは着物好きあるあるですよね~。 5月はそんな因みコーデの話題を書いてみたいと思っております。よろしければお付き合いくださいませ。 よくお仕事は何ですかと聞かれるんですが、フリーランスでいろいろやりすぎて自分でもすぐに答えられないわにこです。そんな仕事の一つに「フォントかるた」というゲームをグラフィックデザイナーの友人たちと制作販売しているというのがあります。 このコラムでも何度か、かるたといえば袴!とネタにしたこともあるのですが、かるたといってもこの「フォントかるた」は、取り札には全て同じ文言(欧文版はアルファベット)が書いてあり、フォントの違いを見分けて札をとるというちょっとマニアックすぎですよねという代物。最初はデザイナーの友人が新年会の余興で作ってきたのですが、そのマニアさが逆に受けたのか、もう発売から8年経っていますがいまだにお陰様で販売を続けています。 最初は日本語だけだったのですが、そのうち拡張パック、欧文版とシリーズが増え、この春とうとう欧文版にも拡張パックが。その名も『Black Letter』といいます。よくヒゲ文字、亀文字などと言われるような黒々とした書体たちを25書体集めたかるたです。 皆様よく中世の雰囲気とかあとは厨二病ぽい雰囲気(笑)を醸すような場面で目にされたこたことがあるのではないかなと思いますが、聖書の写本などに使われた手書きの文字を元にしたフォントです。とても読みにくいです(笑) この2025年4月26日から7月21日まで、印刷博物館にて「黒の芸術 グーテンベルクとドイツ出版印刷文化」という企画展が行われています。15世紀半ばにグーテンベルクによって活版印刷技術が発明され、それまで主に手写であったテキストの複製に大革命がもたらされました。発祥の地ドイツでは黒いインクの色に準え「黒い芸術(die shiwarze Kunst)」と呼ばれました。 活字を作り、それを組み合わせて印刷する技法は昭和な世代なら目にしたことがあるのではないでしょうか。その発祥と歴史を超クールな展示で見ることができます。 メインビジュアルはブラックレターのマテリアルを組み合わせ黒い森のように表現されていて、まさに黒い森に迷い込んでいくようでゾクゾクします。 ブラックレターをテーマにしたかるたを制作していた我々フォントかるた制作チームはもちろんうっきうきで初日に拝見! マインツのグーテンベルク博物館のウルフ・ゼクター博士とニノ・ナノバシビリ博士の講演会も拝聴。博物館の歴史と、有名なグーテンベルク聖書についてのお話を伺いました。ドイツ語でお話され、それを通訳という形式で最初は難しすぎて寝てまうのでは、と思ったのですが、いやいや印刷好き・活字好きにはたまらない興味深いお話でした! 当然ここにいくなら「黒」コーデですよね!と黒いうそつき襦袢(たかはしきもの工房10周年のときに発売されたもの)に黒い着物、黒い革?足袋に黒い草履で揃え、帯は印刷博物館のグーテンベルクの42行聖書のTシャツをかぶせ(推しTシャツ帯形式)、帯留めはブラックレターの代表選手Wilhelm Klingspor Gotischのピンバッチと気合いを入れていきました。 以前ご紹介した作り帯にTシャツを被せて安全ピンで止め、お太鼓の形に作ってしまって背負う形にしました。 関連記事:布を挟む、貼付けるだけで帯が因み柄に変身!の巻 会場では印刷好きの方に「この帯どうなってるんですか?」「写真とっていいですか?」なんて話しかけていただきました(照)チーム全員黒コーデをしていったので、いいですねえ~とフォトコーナーの前で印刷博物館の方にもお写真をとっていただきました(笑) あと、また次回ご紹介させていただきますが、印刷博物館の新館長にあの!京極夏彦先生が就任されて京極コーナーもできています。こちらも必見です! 久々に因みコーデをしてみて(コスプレともいう)、楽しかったです! 皆様もぜひ印刷博物館に黒コーデでお出かけください! ミュージアムショップでフォントかるた『Black Letter』も販売していただいております(宣伝!?)。