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岸惠子さんの「魔物・きものの魅力」を読んでの巻

星わにこ
2026/05/27 00:00
さてさて実は5月の頭に不整脈の手術をして、家でごろごろムーブのわにこです。心臓の音が静かになって、心穏やかになりました。 で、あまり無理もよくないという話でごろごろしながら本を読んだりしているのですが、ネットの古本屋さんで1983年刊の『細雪のきもの』(旺文社)というずっと読みたかった本をゲットしました。谷崎潤一郎の松子夫人監修で市川崑監督の映画『細雪』の着物のグラビアや、女優さんや制作スタッフの話が掲載されているということで、私が欲しいなと思った時にはもう絶版で、地元図書館にも入っていなくて、古本で買うにはちょっと高いなと思ってそのままにしていたのですが、手術を機に「やりたいと思ったことは、できるならやっていこう」と思い、注文しました。 届いて早速本を開くと、『細雪』の公開同時のチラシ、映画鑑賞割引券、朝日新聞の記事の切り抜きが挟まれていて、誰かのファンの方かそれとも細雪マニアか、とにかくこの本を大切にしていたどなたかが昭和58年に購入したものが、めぐって私のところにきたんだなと胸熱になりました。 何度も何度も見たシーンの着物たちの色柄を美しい写真で見ることができて、超大満足。そして監督や出演者の方たちのエピソードや、着物の制作秘話、着物リストと、本当に手に取ることができてよかった~~!! 読んでから映画をみるとまたこれ一層愛が深まります。 そして私たちの一世代、二世代前の人たちの「きもの考」も読むことができるのですが、1983年に着物はすでに、いいものだけどそんなに着ることもないみたいな存在。それを戦前の船場の老舗のお嬢様たちの着こなしに寄せられたかどうか? というような話もちらほら。それでもやはりまだ、着物は細雪の時代と地続きで、時代劇なども盛んでみなが着てはいなくても着物姿はどういうものかみんなが知っている時代だったかなと思います。 そんな中で、長女の鶴子役であった岸惠子さんの「魔物・きものの魅力」というエッセイに頭を殴られたくらい衝撃をうけました。 岸惠子さんはたくさんの本を上梓されていますが、この一節はその中の『パリ・東京井戸端会議』という映画評論家の秦早穂子さんとの往復書簡の本からの転載。『細雪のきもの』同様絶版となっていますが、こちらは新潮文庫に入っているので古本入手も、図書館で借りて読むことも容易です。 国際結婚をするにあたり、パリに大好きなきものを百着以上持参したという岸さん。でもパリで着る気にはなかなかなれなかったそう。その心を紐解くと、外国で「着物を着る」ということが、日本人であるという意識の高揚と自分の中で他民族への対抗心のようなものが芽生えるような気がするというものでした。 映画監督でフランス人の夫が、岸さんが着物を着たのを見て、美しいけれど、明るくざっくばらん部分が消えてまるでサムライのような別の尊大なシロモノのように感じられると言われたそうですが、着物にはそんな「装置」的な部分もあるのかもしれません。また男性に比べて不自由なところも多い女性の着物にはそういった女性の自我を抑えるように感じられる側面もあったのは否めない。 岸さんは戦争も体験されているし、着物の持つそういった「魔力」を敏感に感じ取られたのかもしれません。そして同時に抗えない着物の魅力も。そして本にはこの文章の横に、岸さんの美しい着物姿の横顔の写真が、光と影のようにポジとネガで掲載されていました。 戦後20年あたりで生まれた私は、もう着物に対して「自分を縛るもの、押さえつけるもの」という感覚は薄れていて、そこから必死に抜け出したい、逃げ出したいと思った女性たちの気持ちがわからなかった。ただ、なんでこんな綺麗なのに着ないんだろ、しんどいし面倒だからかな、としか思わなかったけれど、戦後に着物から抜け出した女性たちは、もう絶対元に戻らない!と思っていたのかも。 だって、戦前つまり今からたった80年ほど前までは、女性が自分の名前で財産を持つ権利もなかったのです。今は当然と思われていることも認めてもらえなかった時代の象徴のひとつが着物だとしたら、着物に罪はないけど敬遠されても仕方ないかもと、上の世代の女性たちの「好きだけど、着ない」「着物は持ってはいるけどね‥‥」という呟きの奥底にある気持ちがちょっとわかったような気がしました。 そして今、もっと若い世代の人たちがそんな着物の側面から完全に離れて自由闊達にファッションとして楽しんでいて、それが実現していることが本当に素晴らしい。決してこの、自由にファッションとして純粋に着物を楽しめるようになった環境を手放して欲しくないと思います。同時に、なんで日本人が着物を着なくなったのか、少し深掘りして知っておくことも。物事にはなんでも二面性があるもので、白黒で割り切れないことがいっぱいです。 今はネットでなんでも情報が手に入り、AIが聞きたい答えを囁いてくれるかもしれないけれど、印刷物にしか残っていない情報もたくさんたくさんあります。特に、ちょっと昔の話は本当にそう。 老眼がつらい&インターネット老人会の私だけど、これをきっかけにまた本を読もう!という気持ちになったのでした。