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日舞発表会で衣裳着付見学2025☆「鷺娘」の巻

星わにこ
2025/08/27 00:00
毎年8月に楽しみにしているキモトモ(着物友達)の日舞発表会。これまでもコラムにも何度か書いてきたのですが、今年はあの「鷺娘」を踊るということで、またまた舞台裏の見学をさせていただきました。 「鷺娘」は人間に恋してしまった白鷺が、美しい娘の姿になって舞うけれど、恋は叶わずその命が尽きてしまうという悲恋を描いています。人魚姫みたいですね。雪景色で姿を変化させながら舞う鷺娘が印象的で、映画『国宝』でも(こちらは歌舞伎版ですが)主人公の運命の象徴のように描かれていました。坂東玉三郎丈のシネマ歌舞伎も有名ですよね。 歌舞伎だけでなく、人形浄瑠璃や日舞でも人気のある演目で、衣装も髪型も何度も変わり、見せ場が多い。日舞を嗜む人なら「一度は踊ってみたい」と思うのではないでしょうか。 雪が舞う冬景色の中、白無垢に綿帽子姿で現れた鷺娘。重ね着した白い着物を引き抜きの「かぶせ」という方法で取り去って、赤い振袖姿に変わります。仮糸で留めてある二重仕立ての衣装を、舞台上で後見さんが引き抜きます。 綿帽子も取り去ると、鬘も可愛く赤いかんざしの可愛らしい娘姿で恋の始まりを表現。こちらは「クドキ」というパートだそう。 前半から後半の間に舞台袖に引っこみ、衣装替えとかんざしのチェンジが行われます。衣装さんが二人がかりで橙の振袖に着替えさせて、床山さんが白いかんざしにチェンジ。 秋色の振袖姿で恋の深まりと季節と心の移ろいを表し、最後に引き抜きのもう一つのバージョン、「ぶっかえり」といって上半身の着物を脱がせて腰から下に垂らして白鷺の姿に変身。叶わぬ恋のため地獄に堕ちてしまった……ということで鬘もシケを垂らして、後ろも捌いてザンバラ髪になります。「反り」のポーズや錫杖を振り回す激しい踊り、舞い散る雪とともに舞台は最高潮に。 最後、歌舞伎版では白鷺は息絶えて終わるのですが、この舞台では『二段』という一段高い場に登って決めポーズで幕が降りました。 普段から体幹を鍛えたり筋トレをしたりしながら、2年かけて振りを覚えて舞台に臨んで、見事踊り切ったキモトモに、応援に集まった友達みんなで惜しみない拍手を送りました。本当に、素晴らしかったです。 こちらのコラムでも何度か紹介させてもらったキモトモの日舞発表会ですが、習い始めて12年。大きな演目に挑む姿に感動しました。 関連記事:日舞発表会で衣裳着付見学☆藤娘って美しい!の巻(2016年) 関連記事:Youtubeで日舞発表会。舞台裏を覗いて来たよの巻(2020年) 舞台が終わった後、衣装のままでロビーに出てきてくれる時間があり、みんなで記念写真を撮らせてもらいました。こんな風に写真タイムがある発表会は珍しいので、毎回の楽しみでもあります。 特別に着付なども見学させていただいたのですが、松竹の衣装さんの着せつけの手際のよさ!! 踊っても着崩れず、美しく、またひきぬきなどの特殊な舞台衣装を二人でサクサクと10分ほどで着付。 途中、舞台袖での着せ替えも振袖を着付け直すのも、早い!!! ここではかんざしもチェンジがあり、着替えている間は後見さんや他のお弟子さんに扇であおいでもらったり、水分補給などもさせてもらうため「ちょっとセレブ気分だった」とキモトモは言ってました(笑) 鷺娘の鬘は2キロほどあるそうで、最初は潰し島田に結われたものが、途中でかんざしを変え、さらに地獄に落ちるシーンでは髷を解かれて振り乱すため、発表会などでは鬘が落ちないように羽二重に両面テープを貼って固定するのだとか。衣装も重いし、体力がなければ務まりませんね。 今回鬘を担当された床山さんはなんと映画『国宝』で吉沢亮さんにも鬘をつけたそう。「映画をきっかけに歌舞伎を見てくれる人が増えればいいんだけど」とおっしゃっていました。 これは最初の鬘の様子で、場面が進むにつれて乱れていきます。ドラマチックですね。。。 他にも藤娘や娘道明寺など華やかな演目が続き、まさに日舞は「日本の美」。目の保養をさせていただいた感謝の1日となりました。 取材協力:「藤蔭善次朗日本舞踊教室」

子育てがんばった!自分へのご褒美着物。の巻

星わにこ
2025/08/20 00:00
よく「自分へのご褒美」なんて言いますが、今年は私も自分への「ご褒美着物」を買っちゃいました。なんだかんだでいろいろ自分にご褒美をあげているわけですが(笑)今回は5月に新潟は十日町への研修旅行のときに一目惚れした小千谷縮をお迎え。それがこの8月に仕上がってきました。 薄紫の大きめの格子柄で、和裁師さんが上手に柄合わせをしてくださったおかげで、脇に濃いラインが入り、ちょっと細見え。これがまた嬉しい! 小千谷で湯もみの工程などを見学させていただいたこともあり、愛着もひとしおです。大好きな皆さんとの旅行も楽しかったし、畳紙を開いてはニヤニヤ、閉じてはまた開いてニヤニヤ……。さて、いつ着ようかなと考えていたところ。 ちょうど子どもが8月で20歳を迎えたタイミング。「私もよく頑張ったなぁ」ということで、同じく8月生まれのお子さんがいるママ友と、子どもたちの誕生日祝い兼母たちのご苦労さん会を企画して、恵比寿にローストビーフを食べに行きました。 暑いし体力も落ちてるし、どうしようかな~と思ったのですが、せっかくなのでこの小千谷縮のしつけ糸を外して、初めて袖を通すことに。ディナーだったこともあって、暑さも落ち着いて過ごしやすく、ひさびさにゆったりと食事を楽しみました。子どもたちもすっかり大人になって、シャンパンとサングリアで乾杯。あの頃は小さな子どもを連れての外食は大騒ぎで、着物どころではなかったのに……本当に遠い昔のことになりました。 いや~、大きな節目を一つ乗り越えたな、という気持ちです。 そんな私の20年前の出産は、今思い出しても命がけでした。私は高齢出産で子宮筋腫の手術歴もあったため、帝王切開での計画出産の予定だったのですが、予定日の2日前に思いもよらない激痛が。夜中に緊急入院したところ、子宮破裂を起こしていたそうです。あとから夫に聞いた話では、当時「母体は生存確率2割、子どもは4割」と告げられていたとか。 幸いお医者さまたちの必死の処置で二度の手術を経て、一命を取りとめました。子どもも無事で、本当に奇跡のようでした。 輸血は8リットル。全身麻酔から覚めた時、人工呼吸器をつけられていて夜間だったためしばらく外せず、それがすごく苦しかった。外科病棟にいて、子どもと対面できたのは出産から3日後でした。元気な赤ちゃんですよと聞かされていたものの、自分の状態が悪くて会うことができず、本当に無事なのかなと不安でずっと泣いていたような気がします。 出産後も体力が戻らず、上京してくれた義母や母に助けてもらう日々。母子手帳を見たお医者さんに「ご本人ですか?」と驚かれるくらい、生きているのが不思議なほどの出産だったようです。実は私自身も、仮死状態で生まれ血まみれで24時間保育器に入れられていたそうで……。まさに九死に一生を二度味わった人生。改めて産婦人科に携わる医療関係者の皆さんへの感謝でいっぱいです。 「出産は病気じゃない」なんてよく言われますが、決して安産ばかりではなく、命を賭ける場面になることもある。身をもって実感しました。 今は子どももすっかり手が離れて、あとは学費だけが課題です(笑)。友人の中にはもうお孫さんが誕生した人もいて、私も次のステージに差しかかっているんだなぁと感じます。 この頃はもう友達もお孫さんが誕生している人も多く、私もさらに大人の階段を登ったんだな~としみじみしています。このコラムの担当さんにもお子さんが生まれて勝手にばぁば気分で話を聞かせてもらって幸せのお裾分けをしてもらったり。もうね~ほんとね!!赤ちゃんは天使ですよね!! うちの子の未来は神のみぞ知るですけれど、若い頃インド人の占い師さんに「あなたは73歳まで働き、孫もできる」と言われたことがあります(笑)。それを聞いた時は「え~そんなに働くの~」と思ったけど、今は妙に現実味のある数字になってきました。 女の人生ってまあいろいろありますよね。人には言わなくても、それぞれが何かを乗り越えて生きているんだと思います。そして、ときどきご褒美がなければやっていられない。私にとって着物はそのご褒美であり、着るたびに気分が上がるし「これはこんな風に私のところに来たな」とか「あのとき着たものだな」などと思い出を呼び起こす装置でもあります。 この先のおひとり様人生も視野にいれつつ、これから先、あと何回着物に袖を通せるのかはわからないけれど、ハッピーな気持ちでまた着物に袖が通せるよう、日々を大切に積み重ねていきたいと思っています。

自分好みの素材と長さの腰紐は超楽ですの巻

2025/08/12 00:00
皆様腰紐はどんなものを使ってらっしゃいますか? 腰紐って実は結構好みがあって、十人十色。 素材はもとより、細め、太めなどの好みもさまざま。最近は「結ぶ」ということが苦手な人も増えているためか、ワンタッチのウエストベルトを使う人も多いですよね。 ざっと思いつくだけでも結ぶタイプで7種類ほど。 モスリン(毛織)は使っている方が多いのではないでしょうか。手触りは少しざらざらで滑りにくく、結び目が緩みにくいし、適度な厚みで結びやすいです。一方、ボリュームがあるので、暑かったりもたつくことも。古いものは虫食いが出やすい。 木綿は手触りが優しく、汗も吸ってくれます。洗濯に強いですが、やや滑りやすい。生地が薄いと食い込みやすい。 正絹はしなやかで結びやすく、緩みにくい。シュルッとした手触りも魅力です。水や汗に弱いという弱点も。 ポリエステルはなどの化繊は、安価で軽量、発色がきれいですが、滑りやすく結び目も緩みやすい。 ゴム入り(すずろ、シャーリングなど)は、ゴムの摩擦で着物が安定します。伸縮性があり楽という声も。ゴムが劣化すると効果が半減。 幅広タイプは、素材さまざま。胸紐や伊達締めを使う人もいる。幅広だと、圧力が分散されてシワになりにくく、身丈が長い着物に使うとおはしょりが綺麗になる。着物の長さをとるので、身丈の短い着物には不向き。 最近は「きんち(絹地、絹縮)紐」といわれる楊柳タイプの紐も人気です。素材は正絹で、ある程度厚みがあるもののほうが扱いがしやすいです。しなやかで、ごろごろしないし、軽くて手触りもいいのでテンションがあがります。綺麗な色のものも増えましたね。 結ばないものもあって、全てがゴムでできているウエストベルトで、金具で止めるタイプも。結び目がごろつかないので愛用する方も多いのではないでしょうか。 昔の腰紐で、薄い生地の中に芯があって、くちゃくちゃっと丸まっているものが箪笥から発掘された理もすると思います。他にも手作りなども含めればまだまだ腰紐はいろいろなものがあります。 要は「腰紐」の役割を果たせばいいわけですから、他にも可能性があるかも。先日はレンタルの着物セットについてきたポリエステルの楊柳生地を紐の幅に切っただけ、という腰紐(?)を見て「これもありなのか」と驚愕したことも。 私自身は何を使っているかというと、少し細めの綿の平紐タイプか、きんち紐です。どちらもあまり嵩張らないので、身丈が短い着物でもおはしょりがとりやすくなるのです。頂き物の着物やリサイクルのものなどは身丈が足りないことも多いので、この2種類は重宝しています。 個人的な感覚なのですが、ゴムタイプは、楽なようでいて常にじわじわ締め付けられている感じがしてちょっと苦手です。紐でカチッと止まる感じが嫌だという方もいますし、いろいろな選択肢があるので自分の体感を優先してください。 腰紐は自分に合った素材と形状を選ぶのが第一歩、次に着付時間が超短縮できるのが、自分にあった長さのものを使うことです。 腰回りが大きい場合は「長尺」を使うのはもちろんですが、逆に普通尺でも長すぎて結んで余った分の処理が毎回面倒だなと思う人は処理が楽な長さに切ってしまえばいいのです。 よく使う腰紐一本をマイサイズの長さにするだけで、着付時間が短くなり、小さなイライラが解消します! 胸紐や伊達締め、仮紐も自分に合わない長さのものをプチストレスを感じながら使うより、長さを自分に合わせてしまえばいいのです。 きんち紐などは勿体無くて切れない……という方もいますが、もったいない>楽 なら切らなくてOK。もったいない<楽 なら、切ればよし。 着物や帯も圧倒的にマイサイズが着やすいわけですから、腰紐も自分サイズにカスタマイズしてみてください。あと、人には見えないものですが好きな色や柄、手触りなどお気に入りのものを使うとテンションがあがりますよ。たかが腰紐と侮るなかれです。 もし今、なんとなくそこにある腰紐を使っていたら……着付の要、腰紐も自分のお気に入りを見つけてくださいね。

夏の着物と美術鑑賞は心の栄養の巻

星わにこ
2025/08/06 00:00
毎年暑さが増していくような気がする夏。それでもやはり日傘に着物姿を見ると「涼しそう」と思うのは日本人だからでしょうか。 着ている本人は暑いのはよくよく知っているはずだけど、それでもそんな女性を見ると素敵だなと目で追ってしまいます。 花火大会に行く若い人の浴衣姿とはまた違って、大人の女性がびしっと夏着物や浴衣を着こなしているのを見ると、よくぞと夏着物を着る気概に惚れ惚れしますね! そんな私はというと今年は週3着物を着るぞ!と宣言したにもかかわらず6月にすでに熱中症になりかけかなりペースダウンしている状況のヘタレでございます……。「いのちだいじに」作戦です。 先日もいつもの着物仲間と五島美術館の「極上の仮名 ─王朝貴族の教養と美意識─」に行くことになったのですが、安定の真夏日&体調イマイチということで洋服参加。でも、私以外の4名は着物姿で、本当に目の保養をさせてもらいました。 小千谷縮、綿麻、セオアルファとそれぞれ夏らしい華やかさ、涼やかさあふれる着こなしで、素敵100万点。 五島美術館はお庭も素晴らしく、照りつける太陽と木陰のコントラストの下を日傘で歩く姿は絵になるぅぅ!! 美とは、お洒落とは、健康あってこそ……! もう若い頃のような無理はできないし、これからますます衰えるであろう体力をちょっとでもなんとかしないとと切実に思いました。 そしてほそぼそと仮名書道を習っている身としては、本で目にしている古筆切の実物が!!これでもか!!と展示されているのに大興奮! 皆様と別れてしばしぐるぐると1000年前の紙と墨を目にする奇跡!! 特にこの3年ほど高野切第一種の臨書を続けているので、これが!!紀貫之様(推し)の書いたお手蹟!本物!!と、凝視しすぎて目が血走っていたかもしれません。印刷物では見ることのできない、料紙の雲母砂子のキラキラに気絶しそうに。 キモトモが「こんな手蹟(て)のお手紙をもらったらそれは惚れるわよね」と言っていましたがウンウンガクガク頷きまくり。 他にも藤原行成、公任、小野道風はじめ綺羅星のようなスーパースターズの書蹟がずらり!! そして表装の、使われている古裂の素晴らしいこと………。 「こんなに揃うことは滅多にありません」と館長さんもおっしゃっていましたが、弩級の感動でした。今回もキモトモに行こうよと誘ってもらって会期終わりギリギリに駆け込んだのですが(会期が終わってからコラムを書いてすみません……)、本物の持つ力に圧倒され、本や動画を見て分かったつもりになっていないで、チャンスがあれば自分のみたいものを見に行こう!という気持ちになりました。 着物に、仮名書に……目と心に栄養の夏の日でした。