着付けのお仕事をしていて、よく言われるのが「あら、苦しくないわ」ということ。成人式のときなどに、本当に苦しくてもう着るのが嫌になってしまった、ということを聞きます。先日は「痛くなかった」と言っていただき、よかったと思う一方「ずっと着物は痛いと、我慢してらっしゃったんだ」と胸がつまりました。着物は、痛くないし苦しくないし、もっと着て欲しいなあと思います。
苦しい原因は、胸紐や帯枕の紐、三重仮紐などがみぞおちに集中して、締め付けるのが一番多いのではないでしょうか。普段着でも、みぞおちに紐が食い込むと苦しいのに、振袖は帯を高い位置で結びますから、重みが段違い。
私のように締め付けに弱い人間だと、酸欠を起こしてしまうかもしれません。実際、着せつけてもらったときに、あまりに苦しくて途中で伊達締めを抜いたこともあります。
苦しくなる原因は、十中八九「胸紐」と「伊達締め」の締めすぎです。
着物は紐をきちっと締めないと着崩れてしまいますが、着崩れを恐るあまりに紐をたくさん使ったり、締め付けすぎたりするとそれは痛くて苦しい原因になってしまいます。
着付けてもらうときには、紐を締められるときには息を吸っておけと言われます。息を吐いた状態で締められてしまうと、呼吸が浅くなることもあります。私はゴムの伊達締めを使って着付けてもらったとき、呼吸が浅くなって酸欠を起こしたことがあります。
ぎゅっと押さえつければ気崩れは減りますが、本人が苦しければ意味がありません。その加減が難しいのですよね。
私がするのは主に短時間の撮影用の着付けなので、そこまでがちがちに紐を使いません。えっ、こんなに紐が少なくていいの?と言われることもあります。
成人式の着付けなどでは長時間着用しますから、気崩れないようにたくさん紐を使ったり強く締められがちなので、紐類を結ばれるときに息を吸う、違和感や苦しいなと思ったら伝えるというのが大切。着付け師さんも、加減をしてくれます。大丈夫、というとどんどん締められてしまうこともあるので、遠慮なく伝えましょう。
あと紐がみぞおちに集中しないよう、なるべく帯の中に落として低い位置で結んでもらうのが大事です。
あと、だんだん紐が上にあがってきてしまうこともあります。着ていて苦しくなったら、帯の上線に親指を入れて、紐類を体から離してみてください。それだけでもちょっと息ができますよ。
かといって、あまりゆるゆるにもできません。ウエストマークのないワンピースやチュニックを着るような感覚では着物は着られません。ある程度締め付け感は伴うものなので、その分は慣れでもあると思います。
緊張したりもすると思うので、苦しくならないよう自分が納得して楽しく着付けてもらえるといいですよね。
着付けする側もその力加減が一番難しいところであり、習うより慣れていくしかない。日々たくさんの反省と気づきをいただいて精進するしかないのです。私もたくさん、辛い思いをさせてしまったことがあるのではと、夜中にふと眠れなくなることもあります。
着付けを習うときにも、最初に胸紐や伊達締めを高い位置で締めて結ぶやり方を習っていると、それがなくては着られないと思い込んでしまいがちです。綺麗に着られるけど、実は苦しいのですよね~。
この辺りは、個人差があって、みぞおちを締めても大丈夫な方もいるんです。なので、自分の感覚と相談することが大事です。
着付けを教えるときには、紐は低い位置で結んでいい、ここまで紐や伊達締めを省略してもいい、ということもお伝えするようにしています。いろいろあるけど、最低腰紐1本で着られるものなので、あとはどこまで自分が整えたいか、にかかってくるのです。
紐を締める強さだけに着目しがちですが、それよりも補整を適宜入れると着崩れが減るので紐でぎゅうぎゅうする必要がないし、特にウエスト補整は体への紐の食い込みを防いでクッションになってくれるので、必要だなあ~と感じています。
タオルでもいいのですが、食い込みを押さえるという点で、私はたかはしきもの工房のウエスト全体をぐるっと巻いてしまう腰パッドスキニーを愛用しています。これを使うと腰紐をかなりぎゅっと強く結んでも体が苦しくないのです。しかもウエスト補整がしっかりできるので、おはしょりも綺麗に整うし、気崩れが格段に減ったので、これなしで着物を着ることは考えられないくらい頼っています(笑)。
痛くしない、苦しくしない着付けは、紐の数、紐の位置、紐を締める強さ、そしてウエスト補整が肝だと思います。
痛い、苦しいと思ったことがある方は、このポイントをちょっと見直してみてくださいね。こういうものだと思っていても、ちょっとした工夫で楽になることも。自分の好みで、らくちんな着付けで着物を楽しんでください!