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東京オリンピック着物の話題ベスト3!金メダルは伊調馨!?の巻

星わにこ
2021/08/11 00:00
1年遅れの2020東京オリンピックが終わりましたね。オリンピックに関してはいろんな思いがあると思いますし、プレゼンターの衣装や開会式の様子含め着物マニア的にはあまり盛り上がる部分もなかったのですが、最後にきて着物好きが盛り上がる話題が出ましたね! まずはレスリング女子の表彰式でプレゼンターをつとめた、五輪4連覇の伊調馨さんの振袖姿。これがまた華やかな色柄ではなく、なんと色無地で5つ紋という第一礼装。色は勿忘草色か浅縹か、明るく美しい水色で、控えめですが立場に相応しい姿。映像で見ただけなのではっきりとはわかりませんが、季節にあわせ単衣仕立てのようです。 そこに金の伊達襟をさして、華やかに。帯揚げは桜色の絽、帯締めは夏のレース組。帯は、国民栄誉賞のときに贈られた西陣織・龍村美術織物の袋帯「光吉装華文」でしたね。長身に立て矢結びの斜めのラインがとても映えていました。 そして紋が銀杏=伊調だったのにお気づきでしょうか。二つ違い銀杏は伊調家の家紋でしょうか。銀杏が違い違いに配置されている意匠はレスリングを彷彿とさせますね。直径1・9cmというほんの小さな紋の中に想いや意味がぎゅっと込められているようです。この色無地振袖、今は単衣の振袖ですがこの先仕立て直してお袖を短くして袷の訪問着にもできますし、いろいろな意味であー着物って一生を通じて着られるよいものだなあと思いました。 式典には着物で出席されることが多い伊調馨さん、ご自分が主役のときの華やかな振袖姿との使い分け、さすがのTPOで素晴らしいお姿を見せていただきました。開催事情も季節も違う60年前とは比べるべくもなく、諦めつつも心のどこかで振袖姿のトレイベアラーを夢見ていた人々の溜飲を下げてくれたような気がします。 そして、閉会式のタカラジェンヌ20名! あでやかな着物に緑の袴、宝塚音楽学校の正装での国歌斉唱。佇まいの美しさにこちらの背筋も伸びました。今公演真っ最中の雪組・月組以外の、各組トップさんと生徒さんがずらり。卒業式などでの式典は黒の5つ紋付に緑の袴姿ですが、それ以外はこのように思い思いの晴れ着に袴をあわせるのだそう。着物の衿は詰めて、帯は黒、袴は緑では少し短めの丈に着付けるのが宝塚流です。 この姿は5月の「すみれ募金」という行事でも見ることができます。袖丈が普通の1尺3寸よりも若干長いように感じられ、またその長さが揃っています。入学時に採寸して制服と着物を作るそうですから、その時の指定があるのではないでしょうか。ほんの少し長い袖に若さ、華やかさと気品が感じられてうっとりです。長身も多くスタイルのよいタカラジェンヌにバランスのよい袖丈なのでしょうね。 宙組の真風涼帆さんは紺地に秋草、星組の礼真琴さんは水色地に乱菊、花組の柚香光さんは白地に牡丹?金の箔が華やかな訪問着。皆様本当にお似合いで華やかで、中継映像を見ながら「頼む!一人一人アップで映してええええ!!」と悶えておりました。 そして、小池百合子都知事。リオデジャネイロ五輪の閉会式に雨をも気にせずどどーんと色留袖で登場した勇姿は忘れられないところですが、今回はきっと真夏のオリンピックにあわせて誂えたのであろう、白藍でしょうか瓶覗でしょうか。美しい淡い水色の絽の色留袖で登場でしたね。 文様は扇。扇は末広ともいい開運という意味や、邪悪を払うという意味もあります。すそ模様は扇面にそれぞれ宝尽くしやメダルを連想させるような丸紋などおめでたい古典柄尽くし。帯も桝屋高尾の鏡裏文様の『手織ねん金綴錦』とのことで、ゴージャス。留袖用の白い帯揚げ、金糸の入った帯締めをあわせて末広もさし、礼装として文句のつけどころがありません。 都民としては一言では言い表せない感情もありますが、着物好きとしてはこの姿でオリンピック旗のリレーをしてくれてありがとうという気持ちです。 実は閉会式も忘れていて、テレビもつけずにごろごろしていたのですが、着物友達からの「緑の袴!!色留袖!!」というメッセージで飛び起きて、テレビをつけた次第です(現金だなあ)。見られてよかった。最初見逃した国歌斉唱もすぐにネットで見られて、ほんといい時代ですね。 番外ですが、オリンピックと着物の話題としては、世界の国々をモチーフに振袖を製作したイマジンワールドの「KIMONOプロジェクト」が、まったく日の目を見ることなく終わってしまったのも残念なところ。職人さんたちの技術の結晶である作品がどこかで生かされるといいなあと願っております。 個人的には、存在は知っていてもなかなか実際に見ることがない(しかも単衣!)色無地の5つ紋付振袖で、オリンピックでの伝統的な着物姿の先陣を切ってくれた伊調馨さんに金メダルをさしあげたいです。本当に素敵でした。 「多様性と調和」というテーマということですし、何に関してもみんな違ってみんないいと思うのですが、やっぱり私はトラディショナルな着物が好きで、それも多様性のひとつにいれといてほしいですし、民族衣装にこめられた意味の素晴らしさが継承されていく世の中だとよいなと思ったオリンピック雑感でした。