いつも、着物はボディを寸胴にしたほうが布が体に添ってキレイに着られます! 胸やヒップが目立たず、まっすぐなI(アイ)ラインを作った方がスマートに見えます。だから補整は大事です、と言い続けているワタシですが、先日、でも昭和の女優さんの着物姿とか帯は胸高で体もすっごくカーブしてますよね?と質問されました。
そうなんです。昭和中期のきもの雑誌を見ますと、今と全然着付けもモデルさんのポーズも違っています。流行、ということもあったと思いますが何を目指して着付けられていたのかということがまず違ったのではないでしょうか。
着物が生活に根付いていたこの頃は「着物だって、洋服と同じように足長でほっそりスタイルに見えたほうがいい!」ということがまずありました。だから、モデルさんの立ち姿もまっすぐ立つのではなく、ひねりを加えたり足を曲げたり。帯もウエストに食い込むような形で、ヒップのまるみも感じられる着付けです。
この頃の雑誌「美しいキモノ」や「きものと装い」(主婦の友別冊)などを見ても、特集で「温泉旅行にいったらこんな装い」とか、「夫婦でデート」などなど、様々なシチュエーションでの着物姿が紹介されていますし、自分で作る着物の小物やうわっぱりの製図など、まったくの普段着というよりはちょっとよそ行きだったかもしれませんが、日常に着物姿があったことがわかります。私(50代)がちょうど子どもの頃。祖母は着物が当たり前、母の世代もお正月や卒入式、なにかがあると着物を着ていた世代で、着物になじみがある人も多いでしょう。
もともと、礼装は昭和の時代でも、動き回ることが前提ではありませんから、この頃から美しくシワなく着るという傾向がありました。特に戦後に着物が着られる人が減って行く中での着付け教室などによる「着物のルール」が厳格化していく中で、いろんなしばりも生まれていき、着物離れはどんどん進んでいきました。
それが決定的になったと感じられるのがバブル時期。普段に着物を着ることがほぼなくなってきたときに、着物を「冠婚葬祭の必需品、高級品」として販売した呉服業界によって、着物は日常生活から切り離されてしまいました。このころ創刊されたのが「きものサロン(現在のきものSALON)」。女優さんたちが美しく、一分の隙もなく呉服屋さん提供の高級呉服をモデル仕立て(本仕立てではない)で着ていました。それもあって、ポーズに動きがなくなっていきました。それはそれで絵のようで美しくはありますが、これは日常生活では再現しにくい美しさといえます。
もちろん着物を愛して、普段に着ていた人もいますけれど、本当に少なかったのではないでしょうか。雑誌でも、普段に着物を楽しもう、というよりは、高級なものをいかにシワなく美しく装うかというようなところが主眼だったような気がします。このころの雑誌の着物や帯の値段を見ると「ひっ」と思うような金銭感覚です(笑)。当時20代だった私は、着物に憧れて着たいなと思っていましたが、着物一枚に帯三本なんて呪文のように言われ、言われるがままに着物を買って行ったらどうなるの?と不安にもなり、着物を一旦諦めた思い出があります‥‥。
また少し流れが変わってきたと思うのが平成中期。平成14年の「KIMONO道(後のKIMONO姫)」16年の「七緒」創刊。リサイクル着物やアンティーク着物などを安価におしゃれに楽しんで着ようという流行がやってきたのです。当時古着などで本当に安価に手に入った着物。この頃、バブルを知っている身としては「えー!着物500円とかどういうこと!?そしてこんなに自由でいいの!?」と、楽しさに再開眼して、どっぷり着物沼にはまったワタシ。
東京では、本当にこの15年で普段に着物を楽しむ人の姿が増えたなと実感します。着付教室や呉服業界リードではない、「やっぱ着物着たいじゃん!」という普段着物の流れ、そして着物を着るうちに「いいものはいいよね」と知る、伝統の技もあり。新しい素材の普段着物あり。またやはり、ここでリバイバルとでもいいましょうか、あの足長でヒップのまるみが感じられる曲線着付けが戻って来ているようにも感じます。
ただ言えるのは、曲線着付けが戻って来たからといって補整が必要じゃないわけではないということです。足長着付けは胸をかなり抑えないと難しい。あと、年齢にふさわしいかどうかというのもあります。ここも、個人差があるとは思います。
普段着に関してはここに正解はなくて、自分が「どんな着姿」が理想なのか、ステキ!!憧れ!!なりたい!!と思うのかが最優先事項。人がどういおうと、自分が着たいように着ればいいし、なりたい着物姿に、補整するしないを含めて、寄せて行くことが一番いいんじゃないかなと思います。礼装はまた、別ですけれどね。
今はYoutubeなどもあり、いろんな人のいろんな着付け方法が見られる時代。正解はないからどんどんいいとこ取りして、自分なりのきものスタイルを見つけていけばいいんじゃないかなと思っております。せっかくこの時代に「着物を着よう」という物好き(笑)な仲間は、間違い探しをするより、お互いリスペクトして大事にしたいですよね。
昭和から一般人として着物を眺め続けて来た体感はこんなところですが、うっかり年寄りの繰り言みたいになってしまい、長文となってしまったことお許しください。こうして書いてみるとやだー!もう半世紀も過ぎちゃったわ!と驚き。でもまだまだ人生長いと信じて、いろいろなことを決めつけず、楽しむ気持ちを忘れないでいたいと思います! 皆さんもいろいろ教えてくださいね。