50年前の「さくら人形」を作ってみる。「おとずれ」の巻
星わにこ
2021/04/28 00:00
三度目の緊急事態宣言まっただなかの東京。もはや緊急慣れしてしまっているのか、人の動きは変わらないような気もしないでもない中。大腸ポリープの内視鏡手術をうけたのもあり、しっかりステイホーム予定のわにこです。
ゆっくり家にいる時間があるときにしか出来ないこと‥‥と以前、キモトモからご実家から出て来たという日本人形の制作キットを託されていたものを出してきました。「さくら人形」というものだそうです。
ご両親が新婚時代、見知らぬ土地に転勤となり、お母様がなにかやってみようと思って揃えられたのではないかと言っていましたが、東京高等人形学院というところの通信教育で人形を制作することで、資格も得られて人形作家になれるというもの。初心者の「若衆」コースは3体セットで、それが完成すると高等科・師範科へとすすむことができ、やがて雅号をもらって人形作家として活躍できる!!と書いてありました。
昭和41年当時、1体約2,000円と当時男子の初任給が17,550円(昭和国政総覧 下)とのことですから、結構よいお値段。でも結局すぐに子どもを授かりそれどころではなくなってしまったのでしょう。以来50年以上そのままになっていたというわけです。
「さくら人形」とは日本古来の人形技法にフランス人形の技法を取り入れたものだそう。顔はジョーゼットを貼った上に描かれていて、うちの実家にもあった、こういうの。きっと昭和な時代を知っている方は「どこかでみたことあるー」となる和服のポーズ人形です。よくガラスケースとかに入れられてました。うちにあったのは芸者さんのお人形でした。そして結構大きい。
まずは入門編「おとずれ」という名の人形からトライすることに。このお人形は江戸時代の武家娘であり、高島田を結ってひそかに待ち続けた恋しい人からの文にふと物思いにふける乙女心を、あなたのフレッシュなセンスやアイディアを活かしてじゅうぶんに表現して、と書いてあります。お、おう。
もう頭や体(木屑をつめてあって針金でポーズがつけられる)は出来上がったものがあり、それを組み合わせて着物をきせるというものです。文箱やかんざしなども入っていて、人形者属性がある私としてはかなりかなりかなり盛り上がります!
さてここで問題が。なにしろ古いものなので、お人形と足袋と白いジョーゼットに茶色い置き染みが。はい、怖くありません。ジェニーやバービー人形のカスタマイズは顔のペイントはもとよりパーマどころか植毛までしていたことのある私です。躊躇なく漂白です! 薄めた台所用の漂白剤で、キレイになりました!(水洗いは十分に行います。個人責任でw)
最初のこのキットでは縫って作るものは帯締めだけ(帯止め、と書いてありました)。布に脱脂綿をくるんでくけて作ります。久々にくけ台を取り出しました。帯は作り帯形式でパーツにわかれているので、形を作って糸で止めます。
ここで漂白した足袋や顔が乾いたのでボディにとりかかりました。ボディに足袋をはかせて綿を入れて足を作り、腕や顔を取り付けます。頭をとりつける穴ははさみであけろと書いてあり、かなり迫力のある絵柄でした。
台にとりつけてポーズをつけて、着物を着せる前に綿で補整をしていきます。これはもう、補整や着付の知識がなくてはちょっと難しいのでは?という内容。でも、髪型や衣装などについても勉強になり、とても楽しい作業でした。
着物は、上下にわかれていて、それを虫ピンでボディに止め付けて行くスタイル。けだし(裾除け)も本当に見える部分の布しかなく、上手くできてます。裾引きは、ちょっとコツがわからないと図だけでは難しいかも。
補整も着付も、もはや人形作りというよりは花嫁着付を思い出して没頭してしまいました。お人形作りを通じて、和裁や着物への知識も深まりそうです。
そして、で、できた~~~!! 武家のお嬢様人形「おとづれ」(通称おとちゃん)の完成です!!
そして、で、でかい~~~!! すごい迫力です。猫も興味津々。
ここまで、わりとさくさくっとできまして。調子にのった私は、次の「春雨」というお人形に着手するのでした。来週につづく(つづくんかい!)
2021のトレンドカラーを着物コーデに取り入れようの巻
星わにこ
2021/04/21 00:00
まだ4月なのに、真夏日!? 早速普段着用に単衣の着物をひっぱり出してきたわにこです。真夏日といえども、朝晩は涼しいし、日陰に入ればまた体感温度も下がるので、まだまだ洋服は手放しで半袖!とはなれませんよね。そんなとき、着物は羽織かショール1枚持っていればまあまあ困ることはありません。
とはいえ、また不要不急の外出が制限されそうなので、なかなか着物でおでかけもハードルが高くなってきましたが、季節のおしゃれを考えるだけでも楽しいものです。
JAFCA(日本流行色協会)によると、今年の流行色は「Zero White」。白いスカートや白いトップスを取り入れている方も多いのではないでしょうか。そういえば、今年の卒業式の袴では白を結構おみかけしました。
ゼロホワイトは、まあいわゆる「白」なのですが、ゼロというネーミングの意味は「はじまり」であり、清廉潔白、知性などを象徴するものだそう。コロナ禍の中、新しい生活様式での生活が始まり、真実を見抜く知性や政治の清廉潔白さが求められる世の中に。そんな年を象徴する色となります。
また、白は清潔な色。消毒や除菌など、今、より強く求められるものかもしれません。
JAFCAではこれに組み合わせて使う色として「フレッシュブルー」「インサイトグレー」を、アクセントにする色として「デイライトピンク」「バイタルイエロー」を挙げています。白だけでは‥‥というときコーディネートに取り入れるとぐっと今っぽくなります。
また、色見本帳で有名なPANTONEでは「アルティメットグレイ」と「イルミネーティング」。薄いグレーと黄色を2021年流行色として発表しています。
このあたりの色を組み合わせると、洋服だけでなく着物にも今年っぽい雰囲気が取り入れられそうです。
どちらにしても、どーんと濃い色、派手な色というよりは優しく気持ちに寄り添うようなトーンのほうが、今のトレンドということでしょうか。
やさしげな色使いの着物や帯にちょっと元気になるアクセントカラーを帯締めや帯揚げ、帯留めなどで取り入れてみてはいかがでしょうか。
私も手持ちの着物と帯で組み合わせてみました。優しい感じを目指しつつ、帯揚げはスカーフでちょっと洋服テイストを意識。ここにデイライトピンクの小物があったりするとピリっと決まりそうですね。
ミヤコレのモレッティガラス帯留(グラデーション):ピンクルビーなんかどうでしょう~。元気がでそう!!
意外と色イメージにピッタリなものを探そうとするとないものですね。あと、手持ちのものは好きな色に偏っていることが多いので、そういうものも見直すチャンスになるかもしれません。
お天気がいい日が続きます。虫干しかねてこんなコーディネート遊びはいかがでしょうか。そして早く普通におでかけできる日がきますように‥‥。
30年前に作ってもらった3枚の色無地の話。の巻
星わにこ
2021/04/14 00:00
4月から新生活が始まった方も多いのではないでしょうか。我が家は子どもが高校に入学して、日々いろんな経験をしているようです。中学まではなんだかんだと今日はなに、帰りは何時と気にしていましたが、高校生ともなると一気に手が離れる感じがします。義務教育は終わったんだなあと、実感します。
その卒入式ですが、今年は感染症防止対策で短めの開催ながら保護者も出席して見守ることができました。小学校ではぼっち、中学校では2人だった保護者の着物姿。高校ではどうか!と思いましたら2人でした。さ、寂しい‥‥。でも卒業式も着るもんね(スーツを持っていないとも言う)。
卒園式と小学校の卒業式は雨だったので洗える着物にしましたが、小・中学校入学式と卒業式は同じ白緑の色無地と黒羽織を帯を変えて着ました。でも、あまりにワンパターンでちょっと自分が飽きて来て、高校の入学式には、お宮参りと七五三の参拝のときに着た紅掛空色の一越ちりめんの色無地をひっぱりだしてきました。
30年前。社会人になりお茶を習い始めたと母に言ったところ、だったら、と嫁入り着物の前払い(?)のように色無地を3枚仕立ててくれました。その時はもう離れて暮らしていたので、電話でどんな色がいいかと言われて、臙脂色と銀鼠とあとはおまかせ、と頼んだら、臙脂は濃い色は玄人っぽいのでやめたらと京染め屋さんに言われたそうで、却下。自分としてはスクールカラーなので、と思ったのですが、残念。玄人っぽいってなんじゃと思いましたが、昭和な感覚では仕事着っぽいというところでしょうか?
当時、憧れていたイラストレーターの大橋歩さんの「どきどき着物」という本に、成人式で着た振袖の色を抜いて、銀鼠の色無地に仕立て直して、洋服感覚でいろんなシーンに着ていける万能選手に生まれ変わったという素敵な話が載っていて、銀鼠だけはお願いします、と食い下がったのですが‥‥。
仕立て上がってきた着物と対面したら、白緑(薄い竹色)、梔子(くちなし:黄色)、紅掛空色(薄い水紫色)で、え、え、私の銀鼠ドコ!?となりましたが、どうも私には紅掛空色に見えるものが銀鼠、と言われたらしいです。まあ、素敵な色だし、喪にも使えそうな万能選手ですが、でも銀鼠じゃないー! となった想い出のある着物です。
しかも、日向紋という白抜きの一番格の高い一つ紋が入っているので、どうにもこうにもカジュアルダウンには無理そうなものです。
白緑の色無地は、ケシ縫いの一つ紋で少し大きめの蔦の地紋入りでちょっと華やかな印象があります。
でも紅掛空色のほうは、地紋もなく日向紋が入っており、ザ・礼装という感じ。若い頃はそのプレーンな感じと色が気に入って着ていましたが、一度地紋のある白緑の華やかさを経験してしまうと、そちらばかりを着るようになってしまいました。
でも今回、さすがにちょっとワンパターンすぎるな、と久々に紅掛空色をとりだしました。自分の記憶の中ではつるんとしていてなんとなく物足りないと感じていたのですが、
袖を通してみると、とっしりとした重みもあり、纏うと気持ちも引き締まって「おお~これが礼装パワーか!」と感じ入りました。絹のパワーってすごい。
入学式の頃には、桜ではなくすでに新緑がまぶしく、これからの子どもたちの新しい学校生活が楽しく輝くものになりますようにと祈りました。
色無地にはつづれの帯と、母から受け継いだいつもの一つ紋の黒羽織をあわせました。
黒羽織のお話はこちら:母の黒羽織をリメイクしてみましたの巻
いち利の女将さんとの対談でもお話しています:ほしわにこさん&女将の着物談義
母の黒羽織と義母の羽織紐は、子どもの卒業入学のお祝いのときには一緒に見届けてほしい気持ちで、着ていくようにしています。
あとはお祝いの気持ちで、昨年国立博物館の「きものKIMONO」展の帰りに清水の舞台からダイブしてしまった道明の奈良組を初おろししました。新しいものがなにかあると、特別感がありますよね! あ、買い物の言い訳じゃないですよ、はい(怪しいw)。きっと、この帯締めを使うたびに「子どもの入学式で使った」という晴れやかな想い出が、蘇ることでしょう。
カジュアルダウンもできるという色無地ですが、やっぱりこういうちょっと控えた式服、略礼装に一番しっくりくるものなんだなと改めて思いました。自分のために好きなものを着る、ということと、人のために装う、ということは違うし、それぞれ意味があることなのですね。
それにしても多少体型や年齢や流行が変わっても、着続けられるのが着物のすごいところ。30年前のスーツではこうはいきません。(あとは着られないほど太らないようにしないと‥‥モゴモゴ)
ちなみに、もう一枚の色無地、梔子(日向紋)はちょっと色が濃い目で、地紋が四君子や立涌など吉祥文様の雲取で一番ゴージャスな感じです。一度黒い袋帯をしたら、お寿司の卵焼きのような色合わせになってしまい(笑)以来なんとなく手がのびていません。でもこれもまた、5年、10年と時間が過ぎていつか気に入って着こなせる日がくるかもしれません。虫干しで、取り出しては仕舞い。また思いついては取り出して、仕舞い。母を想い、来し方行く末を想い。それが、着物なのかなあとこのごろ思います。
そして、これはいつ着た、あのときも、このときも、とアルバムのように想い出を刻むもの。30年前に母が作ってくれた色無地たちと、残りの人生も過ごしていくのでしょう。感謝とともに‥‥。
帯板の種類と使い分け。なければ作れる!の巻
星わにこ
2021/04/07 00:00
皆様はどんな帯板をお使いですか? 帯板といっても、本当にいろんな種類があります。最初は母にもらった、赤い布が紙に貼ってあるタイプ(周囲をミシンで縫ってある)ものをず~~~っと使っていましたが、紙のタイプってヘビーユースをすると折れたりぺこぺこになったりしてしまうんですよね。あとなんか、汗でシミができてしまったり‥‥。
着付け教室に行ったり、着付けをしたりするようになっていろんな帯板を見て、その種類に改めてびっくり。いろんなものを試してきました。よく見る帯板の種類は大きく分けて3種類。ベルト付きとそうでないものと、前結び用の胴をぐるっと巻くタイプです。さらに、それぞれメーカーによって長さや幅、素材などで分かれて行きます。
振袖や花嫁着付けをするときには、後ろ板といって、後ろ姿を美しくするための帯板を使いますが、ここでは帯の前側を美しくするために使ういわゆる前板についてお話します。
帯板は、帯締めをしても帯がぐしゃっとならず、シワを防いで美しく見せてくれるもの。長くて脇までカバーできて幅も締める帯幅より少し狭いくらいが、一番シワも作らずキレイに仕上がります。
ただ、あまり長かったりすると腰骨にあたったりもしますし、圧迫感もあります。幅がひろいとはみ出すことも。かといって短すぎたり幅が狭かったりすると今度はシワが気になる。
あと、帯板の張りも好みがあると思います。張りが弱いとふにゃっとなりますし、強いと今度はかなりきちっと帯と帯締めを締めないと、ぼわん、と横に広がって見えてしまうことも。
好みもありますし、意外とその人の体型にも左右されるんです。なんとなーくほとんどの方が最初に手にしたものを使っているのではないかなと思われる帯板ですが、自分にぴったりの帯板を見つけるのって実は結構難しいことかもしれません。
ベルトがついていないものは、帯を結んだとき、帯の1周目と2周目の間に挟みます。これは帯板の上に帯は1周しかしないので、より帯の表面がキレイになります。シンプルな形で、たくさんの大きさの種類があります。素材も、紙芯に布が貼ってあるだけのもの、片面パイル地で滑りにくくなっているもの、メッシュになっているものなどなど。夏用では麻やへちまの帯板などもあります。変わり種としては、透明な帯板も! これは夏の羅など透ける帯をしたときに挟み込んでも、色がひびかないというものです。上級者アイテムですね!
ベルトがついているものは、着物を着て、伊達締めをした上に胴に巻き、その上に帯を巻くものです。なので、帯板の上に帯が2周することになるので、帯の表面は挟み込むタイプより少しソフトに。挟み込む動作がいらないので、自分で着るときなど便利です。素材は同じくいろいろ。ベルトがついている分少しお値段がアップします。
前結び用のものは、前でお太鼓を作ってぐるんとまわせるように、ウエストを1周して作ってあります。ツルツルですべるプラスチックのものや、サテンのような布でできたものなど。
あれこれ試すと結構使い心地が違うんです。今、私がなにを使っているかというと、たかはしきもの工房の「べっぴん帯板」です。これは、長さはあるけど腰骨の部分で斜めにカットされているので、帯締めが通る部分はくしゃっとならずに腰骨の邪魔にもならないという優れもの。あと気に入っているポイントはソフトなところ。そして帯の上側にクッションが入っていて前下がりの帯姿に自然になるというのと、帯を当社比でかなりキュっと締めても苦しくないんです。
やはり着姿的には、着物も帯もなるべくピタっとキュっと身につけた方がキレイになります。帯を巻いたときに、体と帯の間のクッションになってくれるようです。締め付けが怖くてちょっと帯がゆるめで、ぐずっとなりがちだったりしたのですが、それが解消されました。
相性があう帯板を見つけるって、結構大事なことです。
でも、帯板って実は長いのだと持ち運びにめっちゃかさばりますよね! 旅行とか旅先で着替えるとかだったら、短いものでもいいのではと思います。あと、忘れた!とかいうことも起きるかもしれません。私は忘れたことあります(笑)
出張先だったので、デパートの紙袋を底の形を活かしてくるくる折り畳んで挟み込んで使いました(実話)。キモトモも同じことをしたことがあるそうです(笑)。
キモトモの中には、普段楽に着るときには帯締めの結び目のところがあたるあたりだけにハガキサイズくらいの厚紙(お菓子の箱のフタなどを利用)を切ってはさんで使っているわ、という先達も。帯板の面積が大きいと、やはり暑いし、重いですから。
手作り派も結構いて、厚紙だけじゃなくダンボールやPPクラフトシート、クリアファイルなどで作ったりも。着付師さんがお客様が忘れていらっしゃったときに代用したりすることもあります。衿芯はコピー用紙で、とか腰紐をストッキングで乗り切ったとかいろんな逸話(?)も。案外、なんでもいけちゃったりもしますよね!
締める帯やシーンによっても、ふさわしい帯板って変わってくるんだと思います。昔の人はあまり使っていませんよね。写真などを見ても結構帯がシワシワです。まあそういうことをいうときりがないですが、好みや目指す方向で帯板も変わると思うんです。
たかが帯板。されど帯板。お手持ちの帯板、見直してみませんか?