懐かしの「さくら人形」を作ってみる完結編。「八重垣姫」の巻
星わにこ
2021/05/12 00:00
緊急事態宣言が延長となった東京。相変わらず人形を作っていたわにこです。先の2体がもう着物のパーツが縫い上がっていたので、楽勝気分で3体目の「八重垣姫」の説明書を読んだら、布を断って着物を縫うところから‥‥‥。がーん!!
いきなりの難易度爆上がりです。しかも、姫、ということでお振袖。果たして、出来上がるのでしょうか? よくよくこの説明書や添付案内などを読み返すと、いろんな人形ができてわーい楽しい!というガンプラ的なものではなく、作り進むに従って着物を縫ったり、髪を結ったり(!)、人形がイチから作れる人形作家に育成するというシステム。だんだん難易度があがるというわけです。
前回の下駄でもそうですが、1つ難易度の高いことをクリアすると、後の「やったことがある作業」が楽勝に思えるマジックというのがよく効いていて、最初は「縫うの?」なんて、あんなに嫌だった帯締めを作る作業などへのカッパに思えてきます。こうして人は成長していくのね。
くけ台を出してちくちく縫うも、運針が‥‥。でも見えないところについては「裏は大きい針目でもよい」などというなぐさめ(?)もあり、頑張りました。
裾ふきの構造がよくわからなかったりしつつも、なんとか形にしていくと、すごく嬉しくなってきました。お人形のものとはいえ、振袖好きとしてはめっちゃめっちゃ盛り上がります!!
襦袢にあたる部分は、衿とけだし部分だけ。徹底した見えるとこだけでヨカヨカというのが潔い。実は、人形好きなのでバービーやブライスなどいろいろ着せ替えて遊んだことがあるんですが、やっぱりこういう「見えるところだけ」とかある程度割り切っていかないとどんどん着膨れして、すっきり見えないんですよね。目指す方向性で割り切る感も、実際の着付に通じるような気がします。
帯は芯を紙で作ってとのことでしたが、ちょうど帯芯があったので使ってみました。もしかしたら経験がある方もいらっしゃるかもしれませんが、「半衿は三河芯と一緒に縫いつける」というのにチャレンジして、手が血だらけになり、普通の衿芯でいいや、ってなった、その三河芯の残りです‥‥‥。
今までのお人形は、帯も紙の芯を入れて作ってあったのでパキパキ言わせながら形を作りましたが、三河芯を使えばなんとなくいいかんじのような気もいたします(完全な自己満足)。趣味とは、こだわり始めると終わりが見えないもの‥‥。やっぱりこれも着物に通じるような気がしますね(笑)。
台につけたりするのも今回は自分で穴をあけてとりつけたり、絶妙にステップアップしている教材でした。手は前回の春雨のときに失敗してしまったものを使いましたが、見えないからヨシ!(えええ)
テキストにはなかったけど、赤い布が余ったので帯揚げを追加しましたが、微妙かな~。このあたりもアレンジを加えて行くと面白いのかもしれません。沼ですね……。
そして、ドライヤーで兜の房や毛をのばし、髪のびんの部分をお姫様カットにして、完成です!!
この「八重垣姫」とは、歌舞伎「本朝廿四孝 奥庭狐火の場」から題材をとったもの。長尾家の八重垣姫は、武田信玄の嫡男・勝頼の許嫁。恋しい勝頼が危機にあると知り、追いかけて知らせたいと思うが勝頼はすでに湖の向こうに。「翼が欲しい、羽根が欲しい。飛んで行きたい知らせたい」という名台詞とともに、霊力がある武田の兜を手に捧げ持って念ずると、泉水に狐の姿が映ってその願いが聞き届けられ、霊力を借りて諏訪湖の氷上をシャーーーーッと渡って追いかけて危機を知らせに行くという場面のお人形です。すごくはしょっての説明ですみません。シャーッて。
そして、願いが叶った瞬間を表現したということで「泉水を覗き来んでいる」ということなのですが、目線が下にいかなかった‥‥。ですが、情熱的なお姫様であるとともに典雅でありりりしくもあり‥‥というところはそういう目で見ればそう見えるかも。うんうん(自分を納得させている)。
こういうドラマチックな場面を人形で表現することの難しさと楽しさよ! 20年ほど前に「真珠夫人」という昼ドラが流行ったときに、その名場面を人形で再現する『パール人形劇場』というサイトをやっていたことがあり、その楽しさが蘇って参りました‥‥。(その時も着物が多くて楽しかったです!)
こんなのでした。ちなみにタワシコロッケは粘土で手作り。男性の人形は黒髪にするために全部植毛しました<阿呆すぎる。この時はのめりこみすぎて、常に1/6の小物を探していましたね‥‥(遠い目)。
このコラムを読んでくれた友達から『りかさん』(梨木香歩著)という本を教えてもらいました。それは、持ち主とお話ができる人形で‥‥。というお話で、染色や、人形の衣装、着物の話も織り交ぜられて、とても興味深かったです。
様々な人形の物語が出てきますが、事情があって冠をかぶせてもらえず露頂(ろちょう)となり所在なさげにしていた男雛が、冠を頂いた瞬間からモテモテになるというエピソードも。平安貴族の男性が冠を被っていないのはパンツをはいていないのと同じくらい恥ずかしかったそうですから、冠を被ることができてほっとしたことでしょう。よかったね!男雛! 深い深い人形の世界。これで打ち止めにして、また来週からは人間の着物のお話に戻ります。3週に渡っておつきあいいただき、ありがとうございました!