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2020年2月掲載女将×バイヤー対談
突然の品薄!結城紬に何が?
産地の今をバイヤーが語る


大寒を過ぎ、暦の上ではもうすぐ春。記録的な暖冬で今年は防寒コートの出番もなく冬が終わってしまいそうです。過ごしやすいのはありがたいのですが、きりりと身が引き締まるような冬の寒さがあればこそ、春の訪れも嬉しいもの…と思うのは贅沢でしょうか。

さて、先月のコラムで「半衿をしまうための専用箪笥」に触れましたところ、読者の方から「学生寮の寮監先生のお部屋にあったことを思い出しました」とのお便りを頂戴いたしました。拝察しますに今からおそらく半世紀ほど前のことかと思いますが、先生はいつも和服姿で、朝はたすき掛けに姉さんかぶりできびきびと働いておられたのだとか。凛々しいお姿が私の目にも浮かぶようです。先生のお部屋には小ぶりな箪笥があり「これはね、半衿箪笥だったの」とお話くださったことを「その時、すでに過去形でしたが」と懐かしく思い返されたそうです。
私のふとしたひと言が着物の思い出を呼び起こすきっかけになったことがとても嬉しく、また、私たちは着物が日常着だった頃を知る最後の世代なのだということをあらためて実感いたしました。ぜひ、幼い頃の着物の思い出や、お母様おばあ様の着物姿のことなど皆様からもお寄せくださいませ。この場を通じて、若い着物ファンの方にお伝えしていければと存じます。

さて今回はいち利の着物・帯の買い付けを一手に担う林バイヤーとの対談です。といいますのも、私が昨年から気になり、ぜひ詳しく話を聞いてみたいことがあったからです。それが図らずも着物の流通まで深く踏み込むことに…どうぞお楽しみくださいませ。

林バイヤーの紹介はこちら

女将:約2年ぶりの対談ですね。前回は「着物の目利き」について教えていただきました。とてもわかりやすく面白かったと感想もいただきましたよ。

林:そうですか、ありがとうございます。

女将:それで、今回はぜひお聞きしたいことがあって。昨年急に結城紬の無地や手頃な絣がお店に来なくなって、いち利モールにも少ししか並んでいないし。結城紬はいち利が特に力を入れてきた着物で、織元の渡邊綢糸さんとは開店以来のお付き合いです(王道カジュアル「日本三大紬」~結城紬編~いち利と結城紬のちょっといい関係)。いつもなら、バイヤーに「こんな色柄を入れてほしい」とお願いしたらすぐに品物が届いたのに、いったいどうしたのかしらって店のスタッフとも話していたんですよ。

林:いや、前から糸の高騰などもあり年々生産数が減っている感じはあったんです。それが、渡邊さんのほうで昨年一気に生産数を絞ってしまわれて…この話、少しややこしいけれどいいですか?

女将:ぜひ。できるだけわかりやすく、お願いします!

林:結論からいいますと、昨年から渡邊さんの結城紬はほぼ受注生産になりました。一般的に世の中の商品というのは、あらかじめ受注されている数量だけでなく流通販売量を見越して生産しますよね。

女将:ええ。着物に限らずお洋服でも食品でもそうですね。

林:着物も、これまではそういう生産スタイルでした。ただ、着物にはちょっと特殊なシステムがあります。それは、着物が「貸し出し制」であるということなんです。

女将:生産者、メーカーさんは作った着物を貸し出すということですね。

林:そうです。貸し出す相手は問屋さんです。問屋が大量に借りて、さらにいくつかの問屋を間に挟みながら小売店に品物が並びます。大量流通の時代にこのシステムが一般的になり、生産者は大量の貸し出し依頼に対応できるよう、常に多めに生産することが求められてきました。

女将:それで売れなければ、大量の商品が生産者のほうに返ってきてしまうのですね。

林:そうなんです。生産者はそんなリスクを見越して値付けをする、そこに問屋の仲介手数料も何割か加算される。ざっくり言えば、着物が高額になるひとつの理由がこれです。そこに一石を投じたくて、直接買取仕入れというシステムでいち利がスタートしたわけです。

女将:「産直着物の店」ということですね。バイヤーが生産者の方を一軒ずつ訪ねて、というのもそのためですものね。

林:その中でも、渡邊さんとの出合いは本当に思い出深い特別なものでした。それが昨年は仕入れに行っても在庫が無い、買えない、選べない…大量の在庫負担に耐えられなくなった渡邊さんが、とうとう受注生産に踏み切ったのです。

女将:それで、一時お店に結城紬が来なくなってしまったのですね。

林:これはいち利だけでなく、全国の小売店でも結城紬の品揃えが少なくなっているとの声が聞かれます。幸いいち利では受注生産に対応できる体力があったのですぐ対応に動きましたが…店頭に商品を並べたければ、糸分のロットまで全て買い取らなければいけない。これはなかなか厳しいです。

女将:糸分のロット?

林:紬1反を織るための糸を1反ぶんずつ用意したのでは効率が悪いので、最低何反ぶんかまとめて作る。たとえばブルーの結城紬を2反仕入れたくても、糸を6反ぶんまとめて作るのであれば最低6反。5色店頭に並べたければ5色×6反で最低30反買い取らなければいけません。ちなみにいち利は現在8色を6反ずつ、48点を買い取ることになっています。

女将:無地結城紬の同じ色が6反というのはけっこう多いですよね。いち利は3店舗とネットストアもあるから販売できそうですが…

林:普通の町の呉服屋さんでは厳しい条件だと思います。ある程度企業としての規模が大きくないと仕入れられない。また、受注生産に対応できたとしても、在庫が残れば次の仕入れにも響きますから、注文する色柄は季節や流行も加味して慎重に考えなければなりません。納品に数ヶ月~半年かかるのも、商品展開のスケジュールを考える上では足かせになります。好きなときに好きな色柄を選んで仕入れができたのがいかに恵まれていたか…今となっては身にしみます。流通量が少なくなれば、それだけ品物の価格も上がってしまいますしね。

女将:それは困りました…いち利では「憧れの結城紬がこんなに手頃に手に入れられて嬉しい」と皆様に喜んでいただいています。少し前まで、何百万円もする結城紬を着物雑誌やメディアが焚きつけるような風潮もありましたが、いち利ではリーズナブルなものを中心にご紹介してきました。もちろん高級結城紬とお手頃品の風合いは同じではありませんが、たくさんの方に真綿ならではのぬくもりを十分感じていただけたと思います。

林:以前に比べて、お客様にたくさんの色柄から好きなものを選んで楽しんでいただけなくなるのも、バイヤーとしてとてもつらいです。

女将:店頭に多彩な商品が並ばなければ、お客様はよけいに着物と出会いにくくなってしまいますね。でもお話を聞くと、生産者の厳しい状況というのも無視できませんね。

林:消費者の方が考える「着物を作る人」は中小企業、あるいは企業ですらない個人事業主にあたる方がほとんどです。皆さん小規模で弱い立場なので、在庫を抱えることが即経営難につながってしまいます。「受注生産」という選択も、やむをえない面もあるのです。

女将:そういえば結城紬だけでなく、本塩沢も数年前から品薄が続いていますね。

林:結城紬は生産・流通経路ともに限られているため品薄が顕著にあらわれましたが、塩沢のやまだ織も大島紬の東郷織物なども結局同じ状況なわけです。3~4年前にやまだ織の生産数激減があり、昨年やっと新規の仕入れができました。東郷織物も在庫をほとんど持っていないので、仕入れに行っても買い付けようがありません。唯一、大規模に生産できる強い産地といえば京都くらいでしょうか。京友禅、西陣織はブランドネームもあり他の産地に比べればまだ体力があるといえますが、それも楽観できるわけではないと思います。

女将:カジュアル着物のいち利としては、三大紬が生産難というのは本当につらいことですね。みんなで産地を盛り上げていくにはどうしたらいいでしょう。

林:いち利のような取引先がもっと増えれば、産地は健全な運営ができるようになると思います。大量に商品を借りて、売れなければ大量に返品というこれまでの流通は、弱い立場の産地が負担を背負うことで成り立ってきたのですから。

女将:私たちお店も、紬の良さをもっと皆様に伝える努力をしなければいけないですね。産地の方とお客様の接点を増やしたり、コーディネートのご提案をしたり。産地バスツアーもやってみたいですね。雑誌やメディアでも超高級品の結城紬、大島紬ばかりでなく、お手頃な紬のお洒落をもっと取り上げてほしいです。一方では産地にも、もっと今の着物ファンのニーズに合う色柄、品質、センスが求められていると感じます。

林:カジュアル専門店がこれからどう努力するかで変わっていくと思いますし、そのためにも商品力は絶対に必要ですね。商品力がある産地は世代交代が上手くいっているとも感じます。西陣の帯などはその代表格で、老舗を若い世代が継いで、新しいもの作りと発信に取り組み、作り手同士のつながりもできています。

女将:東京では江戸小紋のメーカーさんもユニークな取り組みをされていますね。モダンな柄を次々発表したり、着こなしの提案から産地でのスタンプラリーのようなイベントまで。メーカーだからこそできることもありますよね。

林:こういった動きが全国にもっと広がるといいのですが、未来の展望が見えなければ、若い世代ももの作りの世界に入っていけません。その展望を一緒に作っていくのもいち利の役割だと思っています。10年前「産地と着る人の思いをつなぐ」というキャッチフレーズでスタートしたいち利ですが、この言葉のもつ意味が、今とても大きく重くなっていることを実感しています。バイヤーとしても責任重大です。

女将:春の決算セールに向けて、いち利でも新しいもの作りに取り組んでいますよね。

林:オリジナルの染め結城紬ですね。ちょっと珍しい江戸小紋柄をいくつか、スタッフ皆で選んだ色で染めました。価格もリーズナブルですので、きっと今風の着こなしにぴったりだと思いますよ。

女将:結城紬は、特に初心者さんにおすすめしたい着物です。とにかく軽くて着崩れしない、お手入れも楽。着物を愛する女性のそばに、いつの時代もずっと寄り添ってきたのが結城紬です。ぜひこれからも身近にあってほしいなと思います。

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