2018年9月掲載王道カジュアル「日本三大紬」~結城紬編~
いち利と結城紬のちょっといい関係


大変な酷暑に見舞われたこの夏。さすがに夏着物も敬遠されてしまうのでは…と案じられましたが、いち利では着付教室やちょっとした講座にも、着物姿の方がたくさん。浴衣や麻の着物に半巾帯など少しでも涼しく工夫をこらし、それぞれに夏の装いを満喫しておられるのを日々嬉しく拝見しておりました。
9月に入れば、そろそろ秋の衣替えです。残暑厳しい頃ですが、新しい季節の着物支度はいつも心浮きたつもの。着物や帯の新調でなくても、紅葉や柿、コスモス、ほっこりした木製の帯留など、ちょっとした小物で季節先取りを楽しみましょう。

さて、9月は銀座いち利が誕生した月です。今年は10周年という大きな節目にあたり、記念セールの準備も例年以上に大規模で、本店はあわただしい空気に包まれております。思えば、10年前にはカジュアル着物専門店を産地から直接仕入れでやってみようということは本当に冒険で、まわりにお手本になるようなお店もなく、なにもかも手探りでのスタートでした。

開店の9ヶ月前、いち利は社長とバイヤー2人の「産直プロジェクト」から始まりました。着物の仕入れといえば、今でもメーカーから3~5軒の問屋を通るのが一般的です。それを北は米沢から南は与那国島まで、とにかく産地に足を運び一軒一軒生産者の方を訪ねて回ったのです。
中でも力を入れたのが「日本三大紬」でした。

「日本三大紬」にまずあげられるのは「結城紬」「大島紬」。着物に興味のない方でも名前はご存知なくらい有名ですね。この2つで「三大紬」全体の流通量の大半を占めるともいわれ、二大紬でもよさそうな…と思ってしまいます。「三大紬」の3つめには諸説あり、「牛首紬」「塩沢絣」「上田紬」などがあげられます。

さて、この「結城紬」の仕入れには、ちょっとしたエピソードがあります。
結城紬の織元さんは、どこもシマヤさんと呼ばれる産地問屋との関係が強く、最初は直接取引なんてまったく無理とのお返事でした。けれども、三大紬のひとつとして知名度も人気もあり、織物として他に替えがたい魅力のある結城紬をあきらめることはできないと、寒風吹く中バイヤーがいくつもの織元さんを回るうちに、ふと、ほとんどの工場の壁に同じカレンダーが掛かっていることに気づいたのです。社名入りのカレンダーの名前は「渡邊綢糸工場」。

「何の会社ですか?」と尋ねると結城紬の原材料である真綿糸を扱っており、「自社工場でも織っているよ」とのこと。
糸屋さんならあるいは…と一縷の望みでカレンダーの電話番号にお電話し、工場にお邪魔すると半自動織機と手作業を組み合わせた美しい絣織や、リーズナブルな無地を作っておられました。価格、品質ともに申し分なく、「ぜひ!」と仕入れをお願いしたところ、熱意を感じていただけたのか、はたまたこんなところまで物好きなとあきれられたのか、なんと取引OK!さらに「地機のものも仕入れたいのですが…」と切り出すと、重要無形文化財保持者の猪瀬やす子さんを紹介してくださったのです。

当時、猪瀬やす子さんを小売店が直接訪ねたのはいち利が初めてだったそうです。驚きつつも喜んで迎えてくださった猪瀬さんは、見事な手織の本場結城紬をご提供くださったばかりか、開店から2年ほどは年に数回東京まで足を運び、いち利店頭で実演や結城紬講座を開いてくださいました。現在はご高齢なこともありおいでいただくのが難しくなってしまったのですが、開店当初のいち利を、力を尽くして応援してくださった猪瀬さんには、感謝してもしきれません。

いち利モールの工房ページ「渡邊綢糸工場」で、バイヤーが「あの日あきらめていたら出会えなかった…」とコメントしておりますのは、こんないきさつだったのです。img01ほかにも、工房ページでは大島紬の「南風織物」や「東郷織物」など、いち利のコンセプト「産地と着るひとの思いをつなぐ」に賛同してくださる生産者の方々を、動画も交えてご紹介しております。ぜひ一度、ご覧になってみてくださいませ。

さて、せっかくですから結城紬についてご紹介いたしましょう。
結城紬は、茨城県結城市やその周辺で作られる真綿の紬です。証紙には、中央の文字が「結」と「紬」の2種類あります。img02「結」は地機もしくは高機で手織のもの、「紬」は半自動織機のものをあらわします。
さらに、国が重要無形文化財として総合指定した技術は、糸つむぎ(真綿から糸をつむぐ)、絣くびり(防染する柄の部分を綿糸で括る)、織り(地機)。これらの条件を満たし、手間ひまを経たごく一部の反物が「大変に高価な結城紬」として市場に出ることとなるのです。

結城紬の魅力は、なんといってもその軽さとあたたかみ。「空気は通すが水は通さない」といわれるとおり水に強く濡れても縮まず、ふんわりと体が温まるようなやさしい着心地は、リーズナブルな半自動織機の結城紬でも十分に感じていただけるものです。
そして、何年も愛用すると生地の目が詰まり、真綿独特の毛羽立ちが取れてなんともいえないツヤが生まれてきます。それを実感したとき、ますます結城紬が愛おしくなってくるのです。
結城紬の奥深さに魅せられ目が肥えてこられたら、手間のかかった高価なものを選ぶのもよいでしょう。けれど最初はまず着心地を楽しみ、知識を得て良さを実感されてからでも遅くはないと思います。

初めて結城紬を選ぶなら、コーディネートしやすい無地や飛び柄がおすすめです。
いち利の無地結城紬は、今風のシャーベットカラーやビビッドカラーがさまざまにそろい、お値段はこの10年間変わらず「定価40,000円」のまま。シンプルかつ上品な無地は、帯を替えることで幅広い着こなしが楽しめます。

昔は、若いときは小紋などやわらかものを着て、年をとったら紬を着なさいといわれたものです。若い頃には、年齢に関係なく好きなものを着ればいいじゃない、と思っていましたが、ほどよい張りがある紬は、加齢による体のシルエットの変化を自然にカバーしてくれるのですね。そのためにも、あまりきっちり巻きつけるように着るより、すこしふわっと着付けたほうがよいのですが、結城紬は生地同士が滑らずかみ合うので、ゆったり着ても着崩れしにくいのです。

そんなこともあり、年をとるにつれて紬への愛着が増すこの頃です。今回お話しきれなかった三大紬のあと2つ、そしておうちのたんすに眠っている紬の見極めと活用について、来月引き続きご紹介したいと思います。ご期待ください!

今月のおすすめコーディネート

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