いよいよ秋本番。残暑はやっと落ち着きましたが、まだ袷では汗ばむ日もありそうです。気温に合わせて単衣を着るというのが最近の流れですし、肌着や長襦袢でも涼感素材や汗対策のものを活用して、快適に秋のおでかけを楽しんでくださいね。
さて今回も引き続き「日本三大紬」をご案内いたしましょう。前回はいち利開店当時の思い出も交え、結城紬をご紹介いたしました。
結城紬と並び「日本三大紬」の中心である大島紬は、カジュアル着物を代表する存在と言えましょう。奄美大島産が有名ですが、鹿児島市や都城市でも良質な大島紬が生産されています。つるっと光沢のある生地は軽くて水に強く、しゃきっと着付けられる上裾さばきも良くて動きやすいと、着付け初心者さんの強い味方です。
この生地質は、「紬」という名前ながら撚りのかかった「撚糸」が使われていることで生まれます。昔の大島紬は結城紬と同様に真綿の紬糸で織られ、節のあるほっこりした風合いでした。それが、細かい絣模様が求められるにつれ細くて強い撚糸で織られるようになったのです。現在の「薩摩結城」には昔の大島紬の名残を見ることができます。
大島紬特有の精緻な絣柄は50を超える工程から作られ、大変価値のあるものです。証紙でも水色が手織の絣、オレンジは機械織で絣ではないと見分けられます。もっとも高価な手織ばかりでなく、自動織機で織られた縞や格子の大島紬は値ごろで普段着や雨コートにも活躍しますし、白生地に華やかな染めの訪問着ならばパーティー向きです。大島紬ならではの光沢は、照明の当たるレストランやホテルなどでことのほかお顔うつり良く着映えがします。中でも白大島がやわらかく光を反射する美しさ、上品さといったら!私たちの若い頃は「いつかは白大島」と女性なら誰もが憧れる着物でした。ちなみに結城紬のようにマットな質感の着物は、個室でのお食事会など距離感が近い場合におすすめです。細かい亀甲がよく見えて、結城の良さが伝わりますから。逆に会場が広ければ、大島紬のツヤツヤした輝きが映えます。それぞれの魅力を最大限に表現する着こなしができれば素敵ですね。
昔は「紬は普段着。よそゆきはやわらかもの」という決まりがはっきりしていたので、大島紬や結城紬といえば地味な黒や茶が主流。きれいな色の紬は贅沢品でした。
けれど、今は着物自体がお洒落な外出着になり、紬とやわらかものの区別もゆるやかです。明るく透明感のある無地紬にきれいめの帯はちょっとしたお集まりにも活躍しますし、白大島も贅沢品と決めつけずに、どんどん着回したっていいのです。
女性のニーズに合わせて、紬のデザインもどんどん変化しています。「大島紬は地味であまり好みじゃないな」という方も、ぜひ一度先入観なしに多彩な紬の世界をご覧になってみてください。
そして、三大紬の三番目にあげられる牛首、塩沢、上田。この3つを合わせても、結城紬と大島紬の流通量には遠く及びませんから、お手に取られたことのない方もおいでかもしれませんね。比較的知られているのは牛首紬と塩沢でしょうか。
牛首紬は石川県白山で作られます。双子の繭からとる「玉糸」を使って強い打ち込みで丈夫な白生地を作るため、基本的に色柄は後染めとなります。機屋さんは2社のみで、風合いが少し異なります。滑らかでツヤのあるのが「白山工房」、あたたかみある真綿系が「加藤改石」のものです。加藤改石は全工程が昔と同じ手作業なので生産数は極めて少なく、「幻の」と呼ばれるほど。小売店で出会うことは珍しいでしょう。そして新潟県魚沼の伝統工芸品「本塩沢」は、強撚糸を使うことで生まれる独特のしぼとシャリ感が単衣にもぴったりと愛好されてきました。近年は「やまだ織」が半自動織機を活用して本塩沢を中心に様々な商品を生産し、産地をリードしておられましたが、昨年頃から大幅な生産減となられたとか…残念ながら本塩沢は、今後手に入れにくい着物になりそうです。
さて、日本を代表する紬、いかがでしょうか。より詳しいご案内がいち利モールの工房ページにございます。各産地の魅力ある紬と、それを守る方々をご覧いただけます。
どの産地でも優れた職人さんは高齢化し、特に細かい絣柄を織れる織り手さんは非常に少なくなってしまいました。お母様世代の多くの方がお持ちだった亀甲絣の本塩沢などは、今ではとても貴重なものです。若い方の感覚だと、昔ながらの暗い色の絣柄は地味に見えるかもしれませんね。けれど、シックな絣の着物にちょっといい帯を合わせるのは、流行に左右されない上級者のお洒落。着物雑誌では、今も昔も定期的に紬の特集が組まれます。手間を惜しまない本物は、時代を超えて女性を引き付けるのです。
そんな視点で箪笥を見直したら、ちょっと着てみようかな、と思う紬が眠っていませんか?少しくらい古くても、きちんと手をかければぴかぴかによみがえるかもしれませんよ。
まずは表地をチェック。紬は丈夫なので、昔のものでも表地は比較的しっかりしています。多少のシミはシミ抜きでだいたい落とせますし、全体の汚れは洗い張りでさっぱりきれいになります。
次に裏地。変色した胴裏や赤い八掛は、思い切って取り替えましょう。裏地の寿命はそもそも表地より短いものですから。
そして寸法。特に着姿に響くのは肩裄、身丈、身巾ですが、袖丈や繰越など細かいところも、合わなければ着にくいものです。2か所以上の寸法直しなら、洗い張りをして仕立て直したほうがお安いくらいです。洗い張りは生地に弾力とつやを取り戻す効果もありますし、八掛の色をちょっとシックな今風に替えれば、着姿がぐっと垢抜けますよ。
どうしても落ちない変色やシミなら、染め替えるのも一案です。また、昔の紬は反物の巾が狭いのでご希望の寸法が出ない場合もあるでしょう。着物として着用が難しい場合も、名古屋帯、バッグ、日傘などリメイクのアイデアはたくさんあります。生地の状態や色柄にもよりますので、一度専門家にご相談なさってみてください。
日本各地の風土に根ざした紬は、その土地の歴史や人々の暮らしから生まれた、素晴らしい技術と心の結晶です。紬にとって年月は必ずしもマイナスではなく、むしろ味わいと価値が増すこともあります。以前、お父様の牛首紬を染め替えて女物に仕立てた方がいらっしゃいましたが、なんともいえないツヤととろみがあり、今でも目に焼きついているほど美しいものでした。
10月は毎年恒例「きものクリニック」が開催されます。秋晴れの日は箪笥の風通しにももってこい。ぜひおうちの着物を広げてみてください。思わぬ掘り出しものに出会えるかもしれませんよ!
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