秋も深まり、冬の訪れを感じるころになりましたね。着物的にはまさにオンシーズン。袷を思いっきり楽しめる季節になりました。
今回は、私の大好きな紬のお話をしたいと思います。よく三大紬、といいますが「結城紬」「大島紬」ときてもうひとつは実は諸説あります。「牛首紬」「塩沢絣」「上田紬」などが候補にあげられますが、「牛首紬」とおっしゃる方が一番多いのではないでしょうか。
「牛首紬」は白山市白峰で生産されている紬ですが、ここの旧地名が「牛首村」というのでこの名がついたと言われています。今、工房は「加藤改石」さんと「白山工房」さんの2つしかなく、とても生産量が少ないため、お持ちの方も少ないと思います。
雪国で織られる牛首紬は、釘にひっかかっても釘のほうが抜けてしまうくらい丈夫ということから釘抜き紬
とも呼ばれるほど堅牢な紬です。特徴としては、紬で唯一白生地で織って後染をするものであるということ。絣などとはまた違い、優美な風合いが魅力です。
また「玉繭」という2頭の蚕が共同で一個の繭を作ったものを使っているのが特徴です。玉繭は全体の2%程度しかなく、繭からは2本の糸が出るため絡み合ったりしてうまく糸がとれないため、くず繭の扱いとなってしまいますが、とても丈夫で肌触りも良く、光沢もある糸がとれます。
伝統の技法でこの玉繭の糸を引いて作る牛首紬は、糸が絡んだところに節ができ、そこに染料が溜まって独特な風合いが出るのです。
私も昔、加藤改石さんの工房見学に行ったことがありますが、本当に山深いところで、座繰りで熱湯の中から糸を引いていらっしゃいました。職人さんたちによってたくさんの工程を経て作り出される、その人の手を通ってきた温かみや温もりが、牛首紬の魅力の一つですよね。
雪国の寒さの中、女の人が糸を紡いで作る牛首紬。雪山の光景と相まって、とてもロマンが感じられ、またその温もりのようなものに、惹かれます。
一度は着てみたい、憧れの紬のひとつではないでしょうか。
人の手によって紡がれた糸は、素朴ですが空気を含んでいて艶もあり、伸縮性もあり、絹本来の魅力が感じられます。なんとも言えない艶にうっとりします。また最初は生地に産毛のようなものがあるのですが、着込むほどにその産毛がとれてさらに艶やかな光沢が出ます。
真綿系の紬とは違ってほどよくしなやかな生地ですから、単衣にされる方もいらっしゃいます。
お客様が、お父様の着物を染め直して仕立て直したという牛首紬をお召しになっているのを拝見したことがあるのですが、それが本当になんともいえない艶やかさで、思わず歓声をあげてしまいました。本当に堪えられないような素晴らしさでしたね。
紬は着込むほどに味がでるものですから、白っぽい牛首紬を楽しんで、また濃いめの色に染め替えて着る、なんてことをしてみたいものです。着物好きの夢ですね。
お持ちになっている方は、ぜひたくさん袖を通して成長させて楽しんでくださいね。
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