先月に引き続き、沖縄の着物のお話をしようかと思います。今回は、沖縄本島から西に位置する久米島で織られている久米島紬はご存知でしょうか。
沖縄は、日本でも一番織物の数が多いところ。14世紀から15世紀ごろに中国や東南アジアでの交易で伝わったとされ500年~600年という長い歴史があり、日本の絣の原点とも言われています。
久米島紬は島の豊かな植物を染材として生まれる豊かな色もさることながら、最初から最後まで一人の人が全ての工程に関わって反物を制作する点が特徴ではないでしょうか。着物は糸繰り、染め、織など普通は全て分業で行われるものですから、非常に珍しいことだと思います。
昔は年貢として納めたりもしたものですから、納める前の夜には反物を一晩抱えて眠って名残を惜しんだという話があるほどです。今でも、作家の方の名前と顔写真がしっかりと証書についているほどです。
生糸で織られた大島紬の泥染とはまた違う、つるんとした紬糸の発色は久米島紬ならではの独特な魅力があります。何度も水を潜らせて染めて、最後に糊をたっぷりつけて叩いて柔らかくする「砧打ち」という工程があるのですが、これがまた熟練の技が必要だそう。この砧打ちによって、なんともいえない光沢が生まれるのですね。
洗い張りをして仕立て直すとまた、本当に柔らかくなってテカっと光輝くようなツヤ感が出てきます。
魅力のひとつとして、沖縄独特の自然や動植物などをモチーフにした絣模様があると思うのですが、その絣も、製図でかちっと引いたようなものではなく、すっとぼかしたようなズレがあり、それを「絣足」と言います。その絣足がなんとも言えない柔らかさや素朴さを醸し出していて、とても優しい雰囲気です。紬ですから、普段着扱いとはいえ1972年(昭和47年)に国の重要無形文化財に指定されて以来、なかなか手に入りにくい高級品となっています。
特に今は「ゆうな染」というゆうな(オオハマボウ)という植物の幹を砕いて煮出した染料を使って染めた薄鼠色の美しい久米島紬が珍重されています。その制作工程は伺うだけでも気が遠くなるような手がかかったもので、大変貴重な織物です。
とにかく染材も自然の植物を砕いて煮出して、呉汁を入れて布で漉して、さらに染めるのも一度染めて天日干ししてまた染めて干して……というのを2時間おきに行い、それを4日から14日間行うといった本当に手がかかったものです。本当に貴重な織物で、まさに手に入れたら一生ものの紬ともいえますよね。
私も、以前泥染の久米島紬を大変気に入って着ていて、洗い張りまでしてもうボロボロになって着られなくなるほど着たことがあります。ツバメの絣模様のものだったんですけれど、自然由来の黒褐色は肌馴染みのよい色で、どんな帯にも合わせやすくて重宝いたしました。機会があればもう一枚欲しいなと思うほどです。
お持ちの方は大切に着ていただきたいと思いますし、お持ちでなくてもお手にとってご覧になる機会があったら、ぜひご覧になっていただきたいですね。
三大紬は有名ですけれども、それ以外にも素晴らしい紬が日本にはたくさんあります。いろんな紬の魅力もまたご紹介してまいりますね。