先月に続いて、着物を着る人の意識の変化のお話をさせていただこうかと思います。お店に立って皆様が選ばれる着物、お求めになる着物を長年みておりますが、昔は「高価な着物を所有する」ためにお買い求めになる方が多かったように思います。
嫁入り道具として、喪服や留袖をはじめとしたそれを持っていることが大切、という着物。また、作家ものや希少性のあるものなど高価なもの。全国のさまざまな有名紬など1枚は持っておきたい、というコレクション的な着物。
そういったものがよく売れましたし、例えば大島紬でいうなら○マルキ、というような絣の細かさを表す数字でいかに模様が精緻で技術が高いものであるかということが重要視されていました。9マルキ、12マルキ、15マルキなんていうものまであって、数字の大きさと価格は比例していました。100万円、200万円‥‥なんていうこともザラでしたし、希少性で買うような方も多かったのです。
でも最近の反物にはこの「マルキ」の記載がないものも多いのです。昔はマルキの数字が低ければ売れなかったりしたものですが、今は染めのものもありますし、色やデザインでお客様が選ばれるので、表記自体がなくなってきています。
結城紬でいうなら100亀甲、120亀甲というように高価なものが求められていた時代は、「これを持っていないから、1枚買おう」というような、物を持つ喜びやコレクションをする満足のために買うという方が多かった気がします。
もうそういった技術の高いものは生産もできなくなっているということもありますが、皆様「おしゃれのため、着て楽しむため」のお手頃でデザインが素敵なものを選ばれるようになってきました。
あれもこれも持っているわ、というよりは、好きなものだけを追求する方が増えてきているのではないでしょうか。洋服やバッグなどでもブランドもので固めたり、ブランドものだからと買ったりは今はあまりしませんよね。私にも、ブランドものを持ちたい!という時期もありました。バブルのころなど、保護者会にいったら皆がエルメスやヴィトンのバッグを持っていて、なんてこともありましたよ(笑)。
でもブランドや値段を重視する時代は過ぎて、ブランドで選ぶのではなくて本当に自分がいいと思ったものを選ぶようになってきているのではないでしょうか。そういう価値観の変化が着物にも起きていると思います。
好きなものを選ぶ、我が道を行くという人が増えている。
それは、ものがなくて「人が持っているものが欲しい、持っていないから欲しい」という時代ではなくなって、ものがたくさんある中で自分のセンスでそれを選べるという、豊かな時代になったということなのでしょうね。
そして、そういうことを主張できる、言える社会にもなってきているということですよね。他の人と比べて違うからとか足りないからではなく、自分が必要とするものを手に入れられるというのはとても幸せなことだと思います。
自分の心に正直に、欲しいものは欲しいし、いらないものはいらないといえる時代。
逆に言えば、そんな中で着物を選んでいるということは、本当に好きだからなのでしょうね。
私も長く着物を着て楽しんでおりますが、自分の着物を選んで買うのはいつでも特別なこと。時代が変わっても、そのワクワクする気持ちは変わりません。十人十色、それぞれの個性で心がときめくおしゃれをしたいものですね。