もうすぐ梅雨明け。「スーパー猛暑」の予報に戦々恐々としつつも、からっと晴れた青空が待ち遠しいこの頃です。
さて、このコラムもおかげ様ではや三度目の夏を迎えます。
毎年この季節になると「着物は意外と涼しいですよ」「汗取りを着れば汗ジミはそんなに恐くないですよ」と繰り返しておりますが、その効果あってか(?)、夏のおでかけイベントにご参加くださる方も増えて嬉しい限りです。
しかしながら、踏み込んでみるとなかなか奥深いのが夏着物。約2ヶ月という短い期間の中に、いろいろな生地があり、それぞれに最適な時期があり…着物雑誌には毎年、「単衣~夏物カレンダー」のような付録が付くほどです。
いち利にも、「これはいつ着るもの?」「たぶん夏物だと思うけれど、帯は何が合いますか?」と画像付きのメールを頂戴いたしました。
夏の生地で、ぱっとわかりやすいのは絽ですね。けれど、それ以外は「紗」「夏大島」などそれぞれの中でも厚さや透け感が実にさまざま。メールのお写真だけで、一概に「これは何月のもので帯はこれを」とお答えするのはとても難しいのです。
また、最近は「絽は7月、紗は8月」のような細かい決まりは薄れ、「透け感が強いものは盛夏、そんなに透けていないものは単衣もOK」などと感覚的になりつつあります。
「紗袷」や「絽ちりめん」も、昔はわずか2週間、1ヶ月という期間限定で着ることがお洒落とされました。けれど現代の私たちの生活で、それでは着用機会がなくなってしまいます。この頃は、紗袷は6月前半だけでなく6月、9月の単衣としてOKとされますし、絽ちりめんは単衣~夏を通して着用されるようになりました。私も7、8月に絽ちりめんの訪問着を着ることもあり、なかなか重宝しています。
せっかく、ややこしいルールにとらわれずお洒落を楽しめるようになったのですから、お手持ちやお譲りものの夏着物もぜひお袖を通してみましょう。
何の生地かわからず着用に迷われる場合は、ぜひ身近な着物の先輩や、呉服店におたずねになってみてください。その際には、ご面倒でもお着物をご持参されることをおすすめいたします。透け感や地風は言葉では説明しにくく、写真でも伝わらないですから、実物を前にご相談されるのが一番です。
これから夏着物デビューという方には、以前にもご紹介いたしましたが、絽の小紋がおすすめです。
たとえば、いち利着付教室の先生たちの夏の装いをみてみましょう。
先生方の夏着物は、絽の小紋が主流です。それも、目立たないシンプルな色柄のもの。これは梨園の奥様の着物選びと同じで、「あ!また同じ着物」と思われにくいようにというワザですね。そのシンプル小紋を、授業のときは九寸名古屋帯できちんと、生徒さんとのおでかけでは八寸名古屋帯で涼しく軽やかに、修了式は袋帯で格調高くと、徹底的に着回しておられるのです。
絽の小紋なら、手頃な価格でさまざまな色柄がそろうのも先生方に支持されるポイントでしょう。ご予算に応じて似合う一枚をみつけやすいですから。
気をつけたいのは着用時期。ルールがゆるやかになっているとはいえ、ひと目で夏物とわかる絽は、やはり7、8月の着用が無難です。暑いからといって5月や9月の絽は、ちょっと時期外れに見えてしまいます。
その点で、最近注目されているのが「紗」です。紗の着物は本来8月のものですけれど、このごろは透け感の強いものだけでなく、ちょっと変わった織や地紋でしゃきっとした質感、紗の生地にお洒落な染めや絞りを施したものなども増えています。透け具合や合わせ方次第で単衣の時期まで着られますし、普段着っぽくない上品な色柄を選べば、幅広いシーンで活躍します。
紗は絽に比べて商品数が少ないですから、お好きな色柄や透け感のものに出会えたらぜひ検討いただく価値あり!です。
着回せるとなれば、何度も繰り返し着ることになりますから、汗取りをしっかり着けます。シーズン後のお手入れ費用がだいぶ変わってきますから、背中や腰、脇などシミになりやすい箇所は特に気をつけて、着物に汚れを付けないよう丁寧に扱ってみてください。
夏帯は、白っぽくすっきりした感じの八寸、九寸の名古屋帯があれば万能です。最近は洒落袋帯も増えていますが、夏はやはり名古屋帯のほうが多少は涼しく過ごしやすいでしょう。
ちょっとしたお集まりや観劇、軽めの結婚パーティーくらいでしたら、上品な小紋や附下に白い絽綴れの名古屋帯などでも十分対応できますよ。
夏帯は着物より長く着用できますが、季節先取りが原則ですから、9月は1週目くらいまでが目安でしょう。通年着用OKなのが、博多名古屋帯。透けない平織のものも盛夏に締めて大丈夫なんですよ。小物ですと、ゆるぎ組の帯〆や三分紐も衣替えなくお使いいただけて便利です。
夏物は着物、帯、小物、どれをとっても淡い色が多いので、「白ばかりのコーディネートでぼやけませんか?」と心配されることがあります。けれど、夏はむしろそれがいいのです。
色の印象は光や湿度によっても変わってきます。夏になる前はぼんやり見えた淡いトーンが、強い陽射しの下ではすっきり美しく見えますよ。
長襦袢は夏こそ洗える素材のものが活躍します。涼しさ重視なら麻ですし、竹とポリエステルの混紡「爽竹」は、滑りの良さと通気性を兼ね備えています。最近は熱が籠り汗を吸わないポリエステルよりも、着心地の良い天然素材を求める方が増えています。
とはいえ、体感温度は人それぞれ個人差のあるもの。メーカーによって生地の厚さや質感が異なる場合もありますので、お求めになる際はぜひご自身で手触りなどを確かめてみてください。
夏に着物となるとどなたも暑さを心配なさるのですが、今はどこも冷房がきいていますし、着てしまえば体も慣れてしまうものです。むしろ、「秋になったら着物を着よう」と思っても、体力も落ちている残暑の中で着物を着はじめるのは、想像以上に強い意思が必要ですよ!
まずは思い切って、夏着物をまといお近くにおでかけなさってみてください。衣紋や身八つ口を風がすーっと抜ける着物ならではの「涼」、やみつきになるかもしれませんよ。