2017年11月掲載

バイヤー×女将対談
これで貴女も「着物の目利き」!?


今日から霜月、街はすっかりクリスマスの装いに変わりました。晩秋から初冬へと日に日に寒さが増し、着物のときも手元や首元などが冷えない工夫がほしい頃ですね。

さて、今回は特別企画といたしまして、いち利のバイヤーを迎え、私とのおしゃべりの形で皆様に着物のことをご紹介したいと思います。
お店で実際にお会いになったり、いち利のホームページやいち利モールでご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、簡単にご紹介いたしますね。

銀座本店、心斎橋店、福岡天神店、そしてモールからなる「いち利」は、全国の織元さんや染め屋さん、メーカーから直接仕入れをする「産地直送」がコンセプトです。一般的に着物は、お店に並ぶまでにたくさんの仲介業者を通ることで手数料がかさみ、商品価格が高額になってしまいます。それを省くことで、お客様によい品をよりリーズナブルにお届けしようということなのです。
その中心となって活躍しているのが選任の「バイヤー」です。いち利本店のオープンから足掛け10年、全国各地の作り手さんと直接お話をして商品を選び、納得のいくものだけを仕入れています。ですから、専門知識はもちろんのこと、着物を見る目も誰より厳しく確かです。私たち実際に着物をまとう立場とは違う視点からのお話は、皆様にもお楽しみいただけるのではないでしょうか。

こちらが、林和宏バイヤーです。
http://ichiri-mall.jp/koubou/


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女将:今回のテーマは、一応「目利き」ということなんですけれども。

林:だいぶ前にお店で、「バイヤー目利き講座」と題して2時間くらいの講座をしましたね。証紙の見方や江戸小紋の染色技術の資料を作って。

女将:そういえば、しばらくありませんよね。お客様や生徒さんからも、目利きというか、着物の良し悪しの見方を教えてほしいというお声はときどきいただくんですよ。「他のお店よりもいち利は安いけれど、品物は大丈夫?」なんて訊かれることもあります(笑)。

林:いろいろな呉服店でそれぞれ経営方針に違いがあるし、仕入れ値にしても時期やルートで差があります。それに応じて、ある程度の常識のなかで各店が自由に値決めをするのです。いち利は「一番リーズナブルにお客様に届けよう」というコンセプトで、仕入れや値決めをしていますので、大丈夫とご案内してください(笑)。

女将:同じ品物をよりお安くご紹介できるのはうれしいですね。ただ、安ければ何でもいいかというと、そうではないですよね。たとえば、生地がいいものは着やすいし、着姿がきれいです。お客様も、お値段に見合う価値や品質なのか、確かめたいというお気持ちもあるでしょう。

林:一般的には、価格と品質はある程度比例していますが、着物は値付けが自由なうえ、身近にたくさん流通するものでもないので相場感がわかりにくいんですよね。

女将:そうなんです。昔はもっとシンプルに、有名で高額なものがもてはやされた時代がありましたでしょう。
人間国宝の展示会なんかがたくさんあって、当時は皆、こんなに高価なんだからいいものに違いない!って。人間国宝というお名前や証紙という裏付けが大事で、本当の自分の好みや似合うかどうかは、二の次だったような気がします。

林:そうですね。当時は、所有することがステータスという価値観もありましたし。でも、いち利のお客様や生徒さんは、ご自分の楽しみのために着物を着たいという方たちでしょう。着物に対する志向も変わってきていますよね。

女将:そうなんです。知名度よりご自分に似合うもの、好きなものを着たい。でも、ご自分の判断だけで着物を選ぶのはちょっと不安になってしまう…本当は、お洋服でも皆様失敗しながら学んでらっしゃるはずなんですよ。これは高かったけれど買ってよかったな、これは安物買いの銭失いになっちゃったな、なんて。でも、着物は失敗したときの傷が大きいですから、「目利き力」が欲しくなるのかもしれませんね。

林:私が考える「目利き」は、皆さんが思ってらっしゃるのと少し違うかもしれないですけれども…「目利き講座」は、まず知識をご紹介しようということだったんですね。
たとえば大島紬が、A店では5万円、B店では10万円、C店では15万円だったとしますよね。けれど同じ品物でなければ、どこが安いかという比較はできません。

女将:そうですよね。大島紬が5万円なのは安いですか?とお訊ねいただくことがありますが、それだけではなんとも…。

林:その手がかりのひとつが証紙です。証紙は産地の組合が発行しているもので、勝手に剥がしたり貼ったりできません。値札は嘘をつけるけれど、証紙は嘘をつかないです(笑)。
そして、「証紙付きの大島紬」でも、オレンジの証紙とブルーの証紙は違うものなんです。 オレンジは絣が入っていない無地や縞、格子、白生地を染めたもの。青は絣があるものです。糸を染めて柄を織り出しているので、手間がかかっています。
次に、絣といっても縦横両方の糸にある「経緯絣」なのか、横糸だけの「緯絣」なのか。これもラベルにある情報で見分けることができます。
さらに、ひとつの点を形作る絣糸の本数、これは絣の形を見ればわかります。T字形は「カタス」、手裏剣のようなX字形は「一元」と呼ばれます。ただ、人の手で織るものなので、すべてが等しく揃っているわけではないです。
そして「マルキ」。これは、縦糸に含まれる絣糸の本数を表す単位です。1マルキは80本の絣糸という意味になります。つまり、数が多いほどたくさんの絣糸で細密な柄を描くことになり、膨大な時間と織り手の技術が要求されるわけですね。
これを踏まえて、ブルー証紙の経緯絣5万円と、オレンジ証紙10万円だったら、どちらがお値打ちか。

女将:5万円のブルーかしら、とわかりますね。でも、もしオレンジ証紙10万円が、素晴らしい手描きの染めだったら…

林:そうです。オレンジ証紙が無地か縞か染めものか。染めものでも、インクジェットの大量生産か、職人の手で柄を挿しているものなのか。デザインがよくても簡単に作れるものは安いし、簡単なデザインでも作る工程が複雑なら高価になります。

女将:うーん、ややこしいですよね。

林:ええ。とてもややこしい(笑)。ですから、知識はあくまで「手がかりのひとつ」なんです。中途半端に知識だけで値打ちをはかるのは、むしろ危険とも言えます。

女将:「生兵法は怪我のもと」なんて言いますものね。ここまでしっかりお伝えするのが「目利き講座」だったんですね。

林:ええ。知識が一人歩きするのは困ります。とはいえ、「目利き」の入口は、やっぱり知識なんですよ。着物の作り方の違いを知ったうえで、現物を見て触って、自分の目を肥やしていくわけです。

女将:実際に触ってみることが大事なんですね。けれど、一朝一夕にできることではないでしょうね。

林:そうですね。たとえば、お客様が1本の反物を見る、触る。でも、それだけで良し悪しを判断するのは難しいです。比較できるくらい、たくさん見て触る。それでもまだ不十分です。次に重要なのは、産地の方から実際にお話を聞くことです。なぜなら、産地の人しか知らない技術や歴史、こだわりがありますから。皆さんも、もし品物を見て触るだけでなく、作り手のお話を直接聞く機会があったら、ぐっと目を肥やすチャンスですよ。それをまた、知識として勉強することでさらに深みが増します。

女将:着物をたくさん見ようと思ったら、積極的にチャンスを作ることも大切ですね。

林:それから、これはバイヤーならではなので、お客様にはあまり関係ないかもしれませんが…業界の商品の流れを知るということも不可欠です。一年間の中でも、動く商品、動かない商品があります。この流れを読んで、いいものを一番安く仕入れるタイミングを見極める。着物の価格は生もので、常に変動していますから。そこまでやってこそ「目利き」のプロだと考えています。

女将:なるほど。価格は生ものなんて、ますますわかりにくくなりそうですね…。

林:でも、知識があればある程度ヒントにはなるし、もっとご興味があればそれを訊けるお店に行ったほうが早いです。ちゃんと説明できる店は、勉強して真実を伝える努力をしている店だと思います。

女将:たくさん見て触って、分からないことは訊ねてみる、ということですね。昔は、呉服屋さんはもっと敷居が高かったですけれど、最近は気軽なお店も増えましたものね。

林:もちろん、今もいろいろな呉服店がありますから、まずはちゃんとした信頼できる呉服屋さんをできたら複数、いきつけにすることでしょうね。ゆっくり品物を触って質問して知識や経験が得られる店は、とてもプラスになると思いますよ。それが複数あれば比較ができますし、価格だけでなくここで買おうという要素があるかもしれないですよね。

女将:確かに、お店の雰囲気やサービス、スタッフとの相性も大切ですよね。

林:選ぶということで言いますと、着物の品質、どんな技術で作っているのかということも大事ですけれど、今は着物文化が変わってきていますよね。ライフスタイルや着物の楽しみ方の変化につれて、着物自体もデザイン重視だったり気軽さ重視だったりという方向へ。着物=高額品とひとくくりにしないで、お安く作れるものはお安く販売したらいい。機械織、捺染、型染めが悪いということではないですから。

女将:そうですね。あまり予算をかけずにお洒落重視の遊び着もあれば、ここぞというときの一生ものもあります。いいものをお探しなら、長く着ることになるわけですから、この生地が本当に30年もつのかしらと、いろいろ触っていただきたいです。高価な訪問着でも、製造工程でどれだけの人の手がかかっているかを考えると、お値段にも納得するものがあります。

林:いずれの場合も大事なのは、それを知ったうえで選ぶということですね。だから、たくさん見る、触ることが必要なんです。

女将:お客様や生徒さんも、いろいろなものをご覧になっているうちに、難しい知識はなくても自然とこれはいいものだなと感じるようになられます。不思議と、皆様本当にそうなんです。

林:着物の楽しさって、そこもありますよ。手で感じる奥深さや、そこから生まれる学びや探求。知れば知るほど楽しいんです。いち利モールでは、工房の動画もアップしていますので、よかったらご覧ください。結城紬の渡邊綢糸さんとか、おすすめです。天日干ししてたりね、面白いですよ。

女将:着物のお話はつきないのですけれど、そろそろお時間となりました。最後に、いち利モールのことをお話しいただけますか?

林:今、インターネットの着物、小物の取り扱い量は大幅に増えています。それって、すごくいいことだと思います。たくさん流通すると、お安くなるでしょ?もちろんいいものとそうでないものがありますが、ユーザーも知識があればある程度判断できる。インターネットのお店が淘汰されているなかで、呉服も例外ではないです。

女将:着物を安心して買えるお店が、生き残っていくということですね。

林:そうです。自宅にいても着物を安心して買える、もっといいサービスだってこれから出てくるでしょう。今、いち利モールではそういう時代に向かって、もっとさまざまな情報をお伝えできるように工夫を重ねています。いい写真を撮影して、正しい情報を掲載する。品質保管に注意し、ご注文いただいたら極力早く発送する。そしてこれからは、今よりもっと多種多様な商品を取り扱い、お客様ご自身が比較して選べる環境を整えたい。この2〜3年以内に実現したいですね。

女将:ひとつの品物を選ぶのにも、インターネットの情報なのか、ご自宅で触って選ぶのか、店舗に取り寄せてスタッフに相談しながら選ぶのか…選択肢があるというのはいいことですよね。

林:商品説明にしても、インターネットでは文字に残していつでも無料で読むことができる。以前は本を買わなければ得られなかった知識です。お店で説明を聞くのとはまた違う、インターネットでしかできない利点だと思います。

女将:それに、いち利モールには電話受付もありますものね。モールの電話注文を利用されたお客様から、とっても丁寧に商品の説明を教えてもらったとお聞きしましたよ。電話オペレーターさんだと思っていたら、知識が詳しくてびっくりされたんですって。

林:それはよかったです(笑)。ありがとうございます。

女将:お店もモールも、着物好きな方たちのご要望にもっとお応えしていきたいですね。今日はありがとうございました。


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バイヤーはときどきお店にもおりますので、バイヤーのお話をもっと聞きたい方は、足を運んでみてくださいね。

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