2017年2月掲載

あくなき美の探究者!大久保信子先生の着付け


皆様、こんにちは。大寒の言葉にふさわしく厳しい寒さが続きますが、暦の上ではもうすぐ立春。
梅や桜の柄の帯や帯揚、帯留などを並べて、春のおでかけを思い巡らすのも楽しいこの頃です。

さて、1月にいち利本店、心斎橋店、そして福岡天神店では、「日本初のきものスタイリスト」としてテレビや雑誌でもおなじみの大久保信子先生をお迎えし、「マイナス5キロの着付け術」というテーマで実演講座を行っていただきました。
各店とも満席御礼となり、残念ながらお申し込みの方全員にご参加いただけなかったのが申し訳ないことでございました。

今回は、大久保先生の着付け実演から特に「ここがポイント!」というところと、いち利開店から大久保先生とご縁をいただいている中でも、私のとっておきのエピソードをご紹介いたしますね。

まず、プロフィールを簡単にご紹介いたしましょう。
大久保信子先生は、東京・日本橋に三代続く木綿問屋にお生まれになり、6歳で日舞を始められ、中学生の頃のご趣味は歌舞伎鑑賞と、物心付いた頃から着物と日本文化に親しんでこられました。
一方では、学習院女子短期大学英米文学科を卒業されるなど、当時としては大変ハイカラな少女でいらしたことと思います。
1976年に「日本初のきものスタイリスト」として紹介されて以来、着物雑誌や企業ポスター、テレビ番組や舞台など、第一線で活躍してこられました。最近では、NHKの「ナンノのきもの事始」のレギュラー出演をご覧になった方も多いことでしょう。

多くの女優やモデルが絶賛する大久保先生のスタイリングと着付け。現在公開中の映画「本能寺ホテル」の初日舞台挨拶では、主演の綾瀬はるかさんのお着物を先生がお仕度なさったそうです。
そのテクニックをわかりやすくまとめたのが、昨年10月に発売されたご本「大久保信子先生の着付け入門」(プレジデント社)です。今回の講座は、その内容を着付け実演でご紹介いただきました。

まず、先生が冒頭でおっしゃいましたのが「着物とは、同じ形のものをご自分で美しく見えるように形作っていくもの」ということです。
確かに、お洋服なら同じ形のものをまとえば、どなたにもある程度は同じスタイルが出来上がります。
けれど、着物は寸法の違いこそあれど、形としては皆同じ。それを千差万別、十人十色の体に着付けていくわけです。

「年齢や体型は一人ひとり違います。ご自分に合った着付けを、自分自身で探していくのですよ」
そんなお言葉のとおり、先生の着付けはまずご自分の体を知る、ご自分の体を生かすことから始まります。
そのためには、肌着の着方、紐の締め方一つとっても、おろそかにはなさいません。

「余分な補正はいりません」と先生はおっしゃいますが、それはけして、「補正をしない」ということではありません。
肌着の余った生地、腰紐や伊達締めの重なり、紐の結び目、そしてご自身のお肉。全てを補正としてフル活用するので、余分なものは足さないというわけです。
特に肩や胸にしっかり補正が入ると、「向こうから立派な女がやってきたな、となっちゃうわよ」とのこと。
先生の着付けは、自然な「楚々とした美しさ」をとても大切にされます。

パッドを入れずに上半身をなだらかに整えるために、肌着の脇線を解いて胸をしっかり包み込み、裾よけは柳腰になるようにきゅうっとヒップとお腹に巻きつけます。
肌着だけで女性らしい曲線を生かしつつ美しい土台を作り上げるのは、先生ならではのテクニックです。

紐類も、ふだん体に添わせる程度で締めておられる方からすると、驚くくらいきっちり締めます。けれど、ちっとも苦しくない。
「人間には誰でも、腰のところにいくら締めても平気というツボが一箇所あります。それを探して、そして紐は前下がり後ろ上がりに締めます。丸い体に長方形の紐を締めるには、斜めに巻くことできっちり締まるのです」
ここでも、一人ひとりがご自分の体の「ツボ」を知るということが大切なのですね。

そして、「5ミリにこだわる」という美意識は、まさに数々の名女優とのお仕事で培われたもの。
「衿の巾、帯の巾の5ミリで美しさはまったく変ります。ただ出来上がったものを着るのではなく、どうしたらご自分の首がちょうどいい長さに見えるか(長すぎるのもろくろっ首みたいです)、ご自分の背丈にはどれくらいの帯巾が合うのか、なんでも美しく見える方法を工夫することですよ」
そして、ご参加の方に「貴女なら帯巾はこれくらいあってもいいですよ」「貴女は薄い衿芯を肩山から後ろだけ入れてみて」など、てきぱきとアドバイス。
先生には、一目でその方の着付けの良し悪しが分かってしまわれるのですね。

私の着付けの欠点はここ!とはっきりお分かりの方は意外と少ないものです。それを、「貴女はここをこうしたらもっときれいになるわよ!」と瞬時におっしゃる大久保先生に、ご参加の方は皆様びっくり。
しかも、その着付けはけして画一的ではないのです。

着付けのプロは、どうしても教科書のような着姿を目指しがちです。
大久保先生の着付けは、一人ひとりが生まれ持っている体の良さや女性らしさをそのままに、さらなる美しさを目指していくもの。まさに、ご自分の美を作り出していく着付けなのです。

講座の予定時間を超えてもご質問にひとつずつ丁寧にこたえていた大久保先生は、「もっと美しくなってほしいから、言わずにいられない」という、美への情熱にあふれておられました。

大久保先生とのお付き合いはもう10年近くになりますが、この素晴らしいバイタリティは、ずっとお変わりになりません。
いち利本店が開店したころ、先生の着物のご本に掲載するお着物を協力させていただいたのですが、それを今でもずっと「あのときは有り難かったわ」とおっしゃってくださり、今回もお忙しい合間を縫っていち利全店での講座をご快諾くださいました。

先生との思い出で忘れられないのが、博多にご一緒したときのこと。
空き時間はホテルで休憩なさってくださいとお願いしたのですが、ちっともじっとなさらないで、街をぐるぐる歩いては美味しいパンをたくさん買ってきてくださるのです。
「博多はパンがいいのよ!」とおっしゃって、周りの皆にパンをふるまってくださって。好奇心旺盛でサービス精神に溢れた大久保先生のお人柄に惹き込まれた博多旅行でした。

2年ほど前に、国立劇場での日舞の公演に大久保先生ご自身が出演されたときも、「国立の舞台裏をご案内するから皆さんでいらっしゃい」と気楽にお声掛けくださいましたので、10人ほどでお邪魔しました。
すると、ご出演を控え化粧をして鬘をかぶった状態なのに、楽屋から舞台袖から奈落まで、ご自身が先頭に立ってご案内くださったのです。出番を前に緊張もしておられたでしょうに、「せっかくだからここも見ていらっしゃいよ!」と少女のように天真爛漫な笑顔が、今でも忘れられません。

一方で、ご自分の研鑽への厳しさ、あくなき探究心という点も、大久保先生ほどの方はなかなかいらっしゃいません。
歌舞伎の着付けについては、玉三郎さんの着付け師さんの門を叩き、教えを請うて習得されたとか。
なんと数年前には、私にまで「反物の着付けがわからないから教えて頂戴!」とお電話をくださったのです。
私がお教えするんですか!?と驚きましたが、本当にいち利に来られて、私の申し上げることを全部ノートにきっちりと書き留めておられました。
謙虚に、そして貪欲に学び取ろうというそのお姿には、本当に頭の下がる思いがしたものです。

講座の中で皆様に「ご自分がどうやったら美しく見えるのか、常に工夫、勉強ですよ」と繰り返しおっしゃいましたが、それは先生ご自身がいつもアンテナを張り、研究、勉強を続けてこられたからなのですね。

私たちも、着物を着付けたら鏡で見るだけでなく写真を撮って後姿もチェックしたり、帯の位置、枕の高さなども年齢や体型に合わせていろいろ試してみたり。
大久保先生のようにとはいかないまでも、自分らしく美しい着物姿を目指して、今日からできることがたくさんありそうですよ!

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